『 車 塵 集 』
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戀するものの涙を

な吹きはらひそ秋風

吹きて河べにいたらば

ながれは盡きせじ
幾點愁人涙

不許秋風吹

吹到長江裏

江流無盡期
   (景 翩 翩)


日はくれ風ふき

枝に葉は落つ

もゆる思ひは

君に知られず
日暮風吹

落葉依枝

寸心丹意

愁君未知
   (青渓小姑)

思いひあふれて歌はざらめや

饑をおぼえて食はざらめや

たそがれひとり戸に倚り立ちて

切なく君をしたはざらめや
誰能思不歌

誰能飢不色

日冥當戸倚

惆悵底不憶
    (子 夜)


風は勿ほしそうする衣の

なみだに沾ぢし袖たもと

西する雁にことづてて

つれなき人に見せましを
涙濕香羅袖

臨風不肯乾

欲憑西去雁

寄與薄情見
   (丁 渥 妻)

寝もやらで長き夜ごろを

梭の音のひびきもさむき

この機のこのねり絹は

織りあげて誰が着るぞも
夜久織未休

戞々鳴寒機

機中一疋練

終作阿誰衣
    (兪汝舟妻)


静けさを寝もいね難く

蟲だにもやめぬ歌あり

いかでかは思ひなからむ

語るなり 雲間の月に
夜靜還未眠

蛩吟遽難歇

無那一片心

説向雲間月
   (景 翩 翩)

人目も草も枯れはてて

高殿さむきおばしまの

月にひとりは立ちつくし

歎きわななくものと知れ
萬木凋落苦

樓高獨凭欄

綉幃良夜永

誰念怯孤寒
    (温 婉)


どこでどうして來やったか

凛々しい主がうれひ顔

三度よぶのに知らぬふり

松か柏かきのつよい
歡従何處來

端然有憂色

三喚不一應

有何比松柏
   (子 夜)