『 車 塵 集 』
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分れ路に雲湧きうかび

葉は散るよ峠の茶屋に

かなし、人、雁にあらねば

一つらに飛ばんすべなし
別路雲初起

離亭葉正飛

所所嗟人異

不得一行飛
   (七歳女子)


綾にしき何かを惜しむ

惜しめただ君若き日を

いざや折れはなよかりせば

ためらはば折りて花なし
勧君莫惜金縷

勧君須惜少年時

花開堪折直須折

莫待無花空折枝
     (杜 秋 娘)

ま垣の草をゆひ結び

なさけ知る人にしるべせむ

春のうれひのきはまりて

春の鳥こそ音にも啼け
檻草結同心

將以遺知音

春愁正斷絶

春鳥復哀吟
     (薛 濤)


きさらぎ彌生の春さかり

草と水との色はみどり

枝をたわめて薔薇をつめば

うれしき人が息の香ぞする
陽春二三月

草與水同色

攀條摘香花

言是歡気息
     (孟 珠)

むかし思へばおどろ髪

油もつけず梳きもせず

一たび君に凭りふして

わが身いとしやここかしこ
宿昔不梳頭

絲髪被兩肩

腕伸朗膝上

何処不可憐
     (子 夜)


鏡とりでてうっとりと

つけ心のまなざしや

見入るもとほきうはのそら

戀ぞうれしきかくもこそ
覽鏡獨無語

凝眸意似痴

遙遙無住着

若箇是相思
     (呂 楚 卿)

紅おしろいのにほうのみ

色も香もなきわれながら

願ひみすてぬ神ありて

わが身を君に逢はせつる
芳是香所爲

冶容不敢當

天不奪人願

故使儂見朗
     (子 夜)


通ひ路いかで遠からむ

みこころゆえぞ通はざる

わが思ひこそめぐる輪の

日日に千里をたどれるを
豈日道路長

君懐自阻止

妾心水車輪

日日萬餘里
     (景 翩 翩)