極貧の家から未を起こし、世界の大医学者、医聖と仰がれ細菌の研究により多くの人々の命を救った野口英世、彼の不撓不屈の負けじ魂は、母シカの熱い血より受け継いだものにちがいありません。
それでは、これより英世とその母の姿を少し追って行くことにしましょう。

 野口英世 その一
         
松口 月城

磐梯の山は 巍峩として聳え

苗湖之水は 紺碧 平らかなり

山水 秀ずる処 傑士を産む

野口英世 茲に 誕生

明治維新という転換期から九年が経った1876年11月9日、野口英世は磐梯山猪苗代湖に囲まれた福島県耶麻郡翁島村大字三ツ和字三城潟に生まれました。
だが家はその日の食事も事欠く貧しさの中にあったのです。
養子の父佐代助は定職を持たず朝から酒浸りの生活を送り一家を苦しめる為に居たかの様でした。
一家の大黒柱となっていたのは母シカでした。
夏は農家の仕事、終わると湖畔で小エビを取り、それを朝早くから売り歩く、冬には雪の中を峠を超えて重い荷物を運ぶという重労働を十一年間も続けました。
また、柿や芋を近所の農家から仕入れては行商をするなど、一家四人の糊口をしのぐため当に身を粉にして働き続けたのでした。
野口英世その二
        松口 月城
幼にして 左手を焼きて 不倶と為る
家計 貧困にして 学ぶに 資無し
暮夜竈に倚りて 薪を焚いて 読む
少年の 心緒 乱れて 絲の如し
母 有り之を励まして 情 何ぞ切なる
師あり 之を導きて 亦 諄々