狂女百萬
           
田中 哲菖

兒を覓めて念仏

果たして何くにか之かん

蓬髪狂奔百萬の姿

哀話綿々西大寺

今に至るまで柳影

人をして悲しましむ
是はふとしたことから、かわいい我が子と生き別れをした母の物語です。

「思い重なる年並みの 流るる月の影惜しき
西の大寺の柳影 みどり子の行方 白露の
起きて別れて いづちとも知らず 失せにけり
ひとかたならぬ思い草
葉末の露も青によし 奈良の都を立ち出でて・・・」

南都西大寺の柳の下で、かわいい我が子を見失った女人、付近を必死で探したが見つからず、正に気も狂わんばかり。
それからは諸国の彼方此方を、愛し子を探し求めて幾月日、京都嵯峨野の大念仏に、多くの人が集うと聞く。
嵯峨野清涼寺釈迦堂の前で、狂女の舞を演じる百萬、長き黒髪おどろに乱し、乱れ乱れの心ながら、南無釈迦牟尼仏御陀仏と信心いたすも、我が子に逢わんためなり。
ある日、吉野の僧侶に連れられた一人の子供が参詣にやってくる。この子が別れた我が子と判りここに親子が涙の対面をなすという。