そこで阿漕は、帯刀に返事を書いた。
「何です、あんたの手紙のちゃらんぽらんなこと。あんたの薄情は、ゆうべの仕打ちですっかりわかりました。どんなにアテにならないかも、つくづく思い知らされました。
姫君はご気分が悪いとおっしゃって、まだ臥していらっしゃいます。お返事どころのさわぎではありません。打撃をうけていらっしゃる姫君のごようすを見るのは辛いものです。それもこれも、あんたにせいよ」
と強い調子で書いた。
帯刀は、少将に、阿漕の手紙を見せるべく、早速、部屋へ行った。
驚いたことに、少将は、後朝の文を書いた時そのままの姿でじっと机に頬杖ついて、物思いにふけっているではないか。
そして帯刀の姿を見ると、眼を輝かせ、
「お返事はあったか、姫君の返事は!」
「いや、それがその、ご気分が悪いとのことで、頂けませんでした」
「うーむ」
少将は、がっくりと肩を落とした。そして、
「ああ・・・私は、嫌われたのではないだろうか!」
と額に手を当ててうなだれたのである。
帯刀は驚いた。少将がそんなに
やきもき
しているのを見るのは初めてである。
以前の少将ならば、朝になって、後朝の文を、それぞれ別のところへあてて、二通ぐらい書いていることもあったのだ。
そうして返事が来ると、鼻唄で封を開き、
「えーと、これは、どっちだっけ、前の分か、あとの分か」
などと言い、いうならば、恋の冒険のハシゴをしていたと言ってもよい。
ところが、今度は、違った。
姫君の返事を待ち焦がれ、自分は、もしや嫌われているのではないかと、心配し、落胆っしたり、動揺したり、しているのだ。
「おそばの女房が、代わりに書かなかったか?」
少将はたずねた ── 初夜の後朝の文は、代筆が多いものである。
「は、例の、私めの妻が、私に宛ててこんな返事をよこしました」
帯刀は阿漕の手紙を見せた。
「姫君がご気分がわるい ── 打撃を受けられた?・・・」
少将は考え込んでいるので、帯刀は、
「それはまあ、しかたございますまい。おぼこな姫君にしてみましたら、思いもかけぬ初夜を迎えることになって、さぞ、びっくりされたでしょうからな」
「いや、ちがうのだ」
少将は首を振った。
「そばから見られても、弁解しようのない事実を作ってしまったようだが、実のところ、私は、姫君とはまだ、なんでもないんだよ。あまり、辛がられるのでいたわしくて、引き下がったんだ、── だが、もし姫君のご不興を買ったとすれば、・・・あの、次の当たった着物だな」
「継ぎ?・・・」
帯刀は、なんのことか、わからない。まさか、中納言家の姫君ともあろう方が、継ぎの当たった着物を召されているとは、想像も出来ない。
少将も、姫君の恥を、人に打ちあける気はない。また、自分が、気付いたと姫君に知らせ、羞恥心をいっそう刺激する必要もない。
ただ、あの姫君が、いっそう女らしく、あわれに思えるのであった。
少将は昼になって、また、手紙を書いた。
「あなたのつれなさが増さるにつれ、こちらの恋も増さってゆきます。すげないおあしらいをされればされるほど、男の心は燃えるのです。
矛盾しています。
今はもう、自分で自分がわからない気持です。
ふがいない男より」
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