~ ~ 『 寅 の 読 書 室 Part Ⅶ-Ⅸ』 ~ ~

 
== 『日 本 国 紀 (下)』 ==

著 者:百 田 尚 樹
発 行 所:幻 冬 舎 文 庫
 
 
 
 
 
あとがきにかえて
日本の長い歴史を見つめ直す作業は、実にエキサイティングな旅でした。それは私にとっては、大いなる感動と、先人への深い感謝の念を呼び起こす時間旅行だったといえます。
旅を終えた今、私は心の中に、一つの「問い」が浮かんで、消えません。それは「もし、地球上に日本列島がなかったならば」というものです。日本列島がなければ、当然、日本という国もありません。もちろん有り得ない仮定ですが、それを敢えて、この壮大で荒唐無稽な「歴史のIF」を考えてみたいと思うのです。
皆さんもご存じのように、十六世紀からポルトガルとスペインによる世界進出が始まりました。十七世紀に入るとイギリスやオランダ、フランスも積極的に加わりました。
十九世紀になると、ロシアやアメリカも加わります。日本に黒船がやって来た1853年には、地球上の有色人種が住む地域のほとんどは、彼ら白人の列強の植民地とされていました。最後に残っていたのは、東アジアの中国(当時は清帝国)とその属国の朝鮮、そして我が国、日本だけでした。もっとも中国はアヘン戦争と、その後に起こったアロー戦争後に、イギリスをはじめとする列強によって蚕食されている状態でした。
日本はそんな危機的状況の中、きわどいところで独立を守りました。有色人種の中でいち早く欧米の科学技術を取り入れ、社会体制を大改革し、経済と軍備を重視した政策を取ることによって、列強から国を守り抜くことに成功したのです。そして明治維新から三十六年後、ヨーロッパの大国であったロシアと戦争し、これを打ち破りました。このことがロシアの南下を防ぐことになり、同時に列強の中国支配に歯止めをかけることになりました。
これは本分でも書きましたが、日露戦争は、当時の世界の覇者である白人たちに衝撃を与える大事件でした。十六世紀以降、ヨーロッパの国々が中南米、アジア、アフリカを植民化し、有色人種を奴隷化していった歴史の中で、初めて有色人種の国が白人の大帝国を打ち破ったのですから当然です。しかし有色人種に与えた影響はそれ以上の計り知れないものがありました。「白人は無敵の怪物ではない」と認識させ、「自分たちもやればできる」という勇気を与えたのです。
その後、日本は世界で初めて作られた国史連盟の規約の中に、「肌の色の違いによる差別はなくす」という文言を入れようと努めました。残念なことにそれは実現しませんでしたが、二十一世紀の現在、かつての日本の提言を否定する国はどこにもありまさえん。
そして日露戦争から三十六年後、日本は大東亜戦争で、東南アジアを植民地としていた欧米諸国をすべて追い払いました。このことが当時の東南アジアの人々に、どれほどの勇気を与えたか想像もつきません。
日本はその戦争で、膨大な物量を誇るアメリカの前に力尽きましたが、東南アジア諸国は立ち上がり、長い年月にわたって自分たちを支配していた白人たちに立ち向かい、独立を勝ち取ることになったのです。この流れは、中東やアフリカ諸国にも広がり、次々に有色人種が独立を果しました。これを見る時、日本が世界史の中で果した役割の大きさに粛然とする思いです。
もし日本がなかったら、世界史の流れはどうなっていたでしょう。
列強の中国蚕食はさらに進み、ロシアの南下を防ぐものはなく、同国は満洲や朝鮮半島を自国領としていたでしょう。そして一九〇〇年代初めには、すべての有色人種の地域が白人の列強によって植民地化されていたでしょう。これは言い換えれば、地球上のすべての地域が、白人のものとなっていたということです。
そうなれば、有色人種の意識には「自分たち有色人種は未来永劫、白人には勝てない」という強烈な刷り込みがなされ、白人たちもまた「有色人種は白人よりも劣る劣等民族である」という傲慢な思い込みを捨て去ることはなかったでしょう。そうなれば、有色人種の独立は大幅に遅れたか、あるいは現在も一部の国に限られていた可能性は充分に考えられます。
ロシアが日露戦争で敗北せず、アジアにおける南下政策が実現していたなら、はたしてロシア革命が成功していたかどうかも疑問です。また第一次世界大戦も、まったく違ったものになっていた可能性もあります。
もし日本という国がなければ、二十一世紀の世界は、今、私たちが知る世界とはまるで違ったものdせあったかも知れません。この「IF」を敢えて試みたのは、二十世紀の世界における日本という存在の大きさを、読者の皆さんに意識してもらいたかったからです。私たちの先祖は偉大でした。そして、私たちはその子孫です。
2026/03/15
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