〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part X-U』 〜 〜
== 『般 若 心 経』==

2017/09/03 (日) 読経には、決まった作法がありますか。

ありますが、一番大切なのは、尊いお経を読むのだという気持です。

お経は、ただ読めばいいというのではなく、 「読経作法」 というのがあります。これは宗派によってまちまちですが、顕教と密教の両用の次第 (作法の手順) をあげることにします。もっとも、これは改まったときの作法ですので、外でお参りするときなどは、ただ 『般若心経』 をあげるだけでもけっこうです。
なお、お経を読む姿勢に決まりはありません。正座しても腰かけた姿勢でも、坐禅のように足を組んでもかまいませんが、尊いお経を読むという気持で、なるべく姿勢を正してお読みください。姿勢が悪いと声も思うようには出ませんし、長時間に及ぶと健康にもよくありません。ただ病人などは無理をせず、寝たまま心の中で念じられても十分に功徳になりますので、ご心配はいりません。
声の大きさにつきましては、周囲にも配慮してください。人の迷惑になるような大声を出したり、所かまわずあげるものではないことは、いうまでもありません。

── 読 経 作 法 ─ ─
@ 三礼さんらい
三礼とは、三遍さんべん 拝むことです。正式には五体投地礼ごたいとうちらい ですが、今は坐礼ざらい といって、坐ったままいたします。てのひら を上に向けて両手を前にさし出し、頭をさげます。
A 『南無なむ 十方法界じつぽうほうかい 常住じょうじゅう 三宝さんぼう 』 奉唱 (三遍、二丁)
「南無十方法界常住三宝」 と、三度唱えます。次に、打ち鳴らしがあれば二回たたきます。以降、一丁とか二丁と書きます。一丁なら一回、二丁なら二回たたきます。
B 懺悔文ざんげもん 奉唱 (一遍、一丁)
我昔がしゃく 所造しょぞう 諸悪業しょあくごう皆由かいゆう 無始むし 貧瞋痴とんじんち従身じゅうしん 語意ごい 之所生ししょしょう一切我いつさいが 今皆こんかい 懺悔さんげ 」 と一度唱えて、打ち鳴らしを一丁します。
仏教では、懺悔を先にいたします。これは、罪と知って犯す罪ばかりでなく、知らないうちにつくる罪、また過去世かこせ の罪も含みます。
C 三帰依文 奉唱 (三遍、一丁)
弟子某でしむ 甲盡こうじん 未来みらい さい帰依きえ ぶつ帰依きえ ほう帰依きえ そう 」 と三度唱え、一丁。この言葉の意味は、 「未来永劫、私は仏・法・僧の三宝に帰依します」 となります。ちなみに某甲とは自分のことです。
D 三きょう 奉唱 (三遍、一丁)
「弟子某甲盡未来際。帰依きえ 仏竟ぶつきょう帰依きえ 法竟ほうきょう帰依きえ 僧竟そうきょう 」 と三度唱え、一丁。
これは先ほどの帰依文の完了形です。竟とはきわまった、完了した、という意味ですから、仏・法・僧に帰依いたしました、という訳になります。
E 三聚さんじゆ 浄戒じょうかい 奉唱 (三遍、一丁)
摂善しょうぜん 法戒ぽかい摂律しょうりつ 儀戒ぎかい饒益ぎょうやく 情戒じょうかい 」 と三度唱え、一丁。
これは戒です。普通は十善戒 ( 殺生せっしょう 偸盗ちゅうとう 邪婬じゃいん 妄語もうご 悪口あつく 両舌りょうぜつ 綺語きご 慳貧けんどん 瞋恚しんに 邪見じゃけん ) といって、十種類の戒をお唱えしますが、ここでは略式の作法とします。摂善法戒は きことを行うこと、摂律儀戒は悪事をしないこと、饒益有情戒は一切の人や生きものを利益りやく することです。
ちなみに十善戒を概観しますと、
不殺生=殺してはならない。不偸盗=盗んではならない。不邪婬=妻や夫以外の人間と交わってはいけない。不妄語=嘘をついてはいけない。不悪口=陰口、中傷をしてはいけない。不両舌=二枚舌はいけない。不綺語=無駄口、無駄話はいけない。不慳貧=貪ってはいけない。不瞋恚=自分に順わない者に対し、怒りをもってはいけない。不邪見=物事の本質を見極める眼を持たなければいけない。
となります。最後の不邪見とは、因果のことわり を無視することをいいます。
F 開経かいきょう 奉唱 (一遍、二丁)
無上むじょう じん じん 妙法みょうほう百千万ひゃくせんまん 劫難ごうなん 遭遇そうぐう こん 見聞得けんもんとく 受持じゅじ願解がんげ 如来にょらい 真実儀しんじつぎ 」 と一度唱え、二丁。
開経偈とは、経典をあげる前に唱えられるものです。出典や作者は不明ですが、およそ宗派でも慣用的に唱えられます。下し読みしますと、 「無上盡微妙の法は、百千万劫にも遭遇することかた し。我れ今見聞し、受持することを得たり、願くは、如来の真実儀を したてまつらん」 となります。これから唱えるお経は、生まれ変わり死に変わりして、ようやく出会うことが出来るほど貴重なものだ、と賛嘆しているのです。
G 読経 どきょう
ここで、 「魔訶 まか 般若 はんにゃ 波羅 はら 蜜多 みつた 心経 しんぎょう 」 からはじまる経文を読みます。
読む回数に決まりはありません。もし千巻心経 せんがんしんぎょう (祈願を持って千回読経する) のように、何回か続けて読む時は、二回目以降、経題は省いて 「かん 自在 じざい 菩薩 ぼさつ 」 からくり返してもけっこうです。
お経を読んだあとに、一丁します。そのあとで信仰している仏様の名号、たとえば 「南無 なむ 観世音 かんぜおん 菩薩ぼさつ 」 とか、しょう 観音菩薩のご真言である 「オン・アロリキャ・ソワカ」 もしくは 『般若心経』 のご真言である 「ギャーティ・ギャーティ・ハラギャーティ・ハラソウギャーティ・ボジソワカ」 を繰り返してもいいでしょう。
H 回向文えこうもん 奉唱 (一遍、五丁)
がん 以此にし 功徳くどく普及ふぎゅう 一切いっさい我等がとう 衆生しゅじょう皆共かいぐ 成仏道じょうぶつどう 」 と一度唱え、五丁。
読み下しますと、 「願わくはこの功徳をもつ って一切におよぼし、我等と衆生と皆共に仏道を成さんことを」 となります。自分だけでなく、あらゆる衆生の幸福を祈って終りにします。
I 三礼
すべてを唱え終わったら、最後にまた三礼します。
『実践 般若心経入門』 著:羽田 守快 ヨリ
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