〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part X-U』 〜 〜
== 『般 若 心 経』==

2017/08/21 (月) 

さて、無?礙けいげ とは、先に述べましたように 「自在になること」 ですから、観音様かんのんさま のお徳である 「観自在かんじざい 」 のものの見方が出来れば、こうした恐怖は除かれてまいります。恐怖は無知より生まれ、無知は無明より生まれます。般若はんにゃ無明むみょう の闇を照らし、無知を除き恐怖を除くものです。
仏の智慧ちえ を体得しることは容易ではありませんが、仏の智慧を説明するのに古来 「五智ごち 」 ということを言います。これが主に密教の方で言われるものです。五智とは 「大円鏡智」だいえんきょうち平等性智びょうどうしょうち 」 「妙観察智みょうかんざつち 」 「成所じょうしょ 作智さち 」 「法界体性智ほっかいたいしょうち 」 の五つです。大円鏡智とは。大きなまる い鏡の中に、すべての実相がありのままに映し出されるように、一切のものをあるがままにとらえることの出来る智慧。平等性智とは、一切のものの平等性を体得した智慧。妙観察智とは、一切のものを何のとらわれもない澄んだ眼で正しく見通す智慧。成所作智とは、自他が本来なすべき最上のことを知り、成就せしめる智慧のこととされています。最後の法界体性智と」いうのは密教的な考え方で、これまでの四智を統括するような智慧です。あえて言えば一切のもの、この世界の実相を明らかにする智慧となりましょう。
これらの智慧は、実際にはどれも体感するしかない、つまりこの境地に達してはじめて分かる感覚的な境涯きょうがい ですから、言葉だけでは少し難しいかもしれません。ただ名称からして、どれもが現実的にあらゆる角度からものを ることが出来る智慧なのだということはお分かりになると思います。とりわけ成所作智は、ただ単にものを知り、判断するにとどまらず、必要なものごとを成就する智慧ということになっています。般若の智慧を得た時は、前に申しましたように五智が備わりますので、かたよ りのない円満なものの見方が出来ます。これによって、自分の都合やこだわりから生じる、誤ったものの見方を排することが出来るのです。
宗教は哲学とは違い、思索にとどまるものではありません。現実に何をするかが大切です。さきほど恐怖という問題の解決にこの五智をあててみますと、まず大円鏡智をもって問題を正確にありのままに知り、平等性智をもって恐怖する人と対象を平等の眼で見、妙観察智をもって双方の差異をこと細かに知り、そして成所作智をもって何をなすべきかを判断し、実行します。そして、それらの智慧のもとともいうべきものが法界体性智であります。
これは法界、すなわちこの世界のすべてのものの実相を把握する智慧ですから、この智慧なくしては、その他の智慧をもってしても、根本的な問題解決には至りません。法界体性智以外の四つの智慧は、表向きは世間の智慧のように思えますが、背後にこの智慧あればこそ、仏の智慧といえるのです。
『実践 般若心経入門』 著:羽田 守快 ヨリ
Next