〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part X-U』 〜 〜
== 『般 若 心 経』==

2017/07/26 (水) 

仏教では生命の生ずる世界は六つあるとされ、これを六道ろくどう と呼びます。人間と傍生ぼうしょう (畜生ちくしょう ) 、そして地獄、餓鬼がき阿修羅あしゅら 、天 です。このうち、人間と傍生は、われわれの目に見える存在ですが、地獄、餓鬼、阿修羅、天 は、普通の人の感覚認識を超えた不可知の世界です。生まれ方も胎生たいしょう卵生らんしょう湿生しつしょう化生けしょう といって四種類あります。これを四生ししょう といいます。胎生は母胎から生まれるもの、卵生は卵から生まれるもの、湿生はじめじめとしたものから生じるもの、化生とは何もない所から忽然こつぜん と出生するもので、地獄や阿修羅の住人、天人などはこの化生にによって生まれるとされています。
こうした 「六道四生」 の世界をさまよわずに解脱したい、というのが仏教の教えですから、 「死んだらそれでおしまい」 などというのは、とうてい仏教と呼べるものではありません。ただこれは○○さんの霊魂というようなものが永遠にあると言っているのではありません。亡くなって四十九日の間は○○さんですが、その後は天界に生まれるのか、はたまた地獄へ ちるのかは、わかりません。とにかく新しい生命の旅立ちとなります。どんな所へ生まれるのかは、各人の阿頼耶識 (諸識を生じさせる根本識) しだいなのです。
そこで、四十九日に法要をして旅立つ霊魂に功徳くどく を手向けて、なるべくよい世界へ行ってもらいたいというのが、いわゆる 明けの 「四十九日法要」 であります。ですから、その後の法事は 「追善ついぜん 供養」 といいまして、生まれ変わった方に代わって功徳をつくり、応援する意味で行うのです。お坊さんがお経をあげて 「ねんごろにご回向えこう申し上げました」 などと言いますが、この回向というのが、お経の功徳を死んでいった方に回し向けるということなのです。
また、密教には 「禁五きんご 路法じほう 」 というのがあります。最近はあまり行われないようですが、これは亡者もうじゃ が極楽に行かないまでも、人間界以外に転生することにないよう、ほかの五つの道をふさ ぐために行うものなのです。人間界より上の境涯きょうがい は天界ですが、ここはあまりに楽なので修行ということがなく、ややもすると放逸ほういつ になり、次には一転して地獄に ちることになりかねないというので、天界へ行くのも避けます。このため天界は 「八難所はちなんじょ 」 といって、仏道修行のしにくい所の一つとされております。こうしてみますと、何よりもこの人間界が、仏道修行には最適な場所であると言えるでしょう。
生命が転生する 「六道四生」 の世界
天 道神々の世界。人間界にはない能力や寿命を得られるが、その安楽さゆえに仏道を求めにくい。
人 道人間の世界。苦しみに満ちてはいるが、もっとも修行のしやすい世界とされる。
阿 修 羅 道闘争的な鬼神の世界。自我の強烈さゆえに、つねに争いが絶えない。
傍 生 道動物の世界で、畜生道ともいう。愚かさの果てに転生する。
餓 鬼 道飢えと渇きに満ちた世界。
前世において、むさぶることに終始した者が転生する。
地 獄 道間断なき苦しみの世界。前世で重い罪を犯した者や憎悪に支配された者が転生する。
胎 生母胎から生まれるもの。ヒトや哺乳類。
卵 生卵からかえるもの。鳥、昆虫、魚 など。
湿 生じめじめしたものから生じるもの。植物や菌類。
化 生何もない所から生じるもの。天人や鬼神。
『実践 般若心経入門』 著:羽田 守快 ヨリ
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