〜 〜 『 寅 の 読 書 室 Part X-U』 〜 〜
== 『般 若 心 経』==
2017/07/14 (金)
『般若心経』 はなぜお経のベストセラーなのですか?
二六二文字の経文に、すべての仏教に共通する心理が宿っているからです。
『
般若心経
(
はんにゃしんぎょう
)
』 は、日本で最も読まれているお経です。
なぜそんなに人気があるのでしょうか。
ひとつには、
読誦
(
どくしゅ
)
するとき、その長さが適当であることが大きな理由と思われます。全部で二六二文字あるのですが、どんなにゆっくり読んでも五分もあれば読めてしまいます。短いですから、覚えるのも容易です。私の知人に、たった一日で覚えてしまった人がありました。そして一度覚えれば、いつでもどこでもお唱えすることができます。
また、 『般若心経』 は現在、
日蓮
(
にちれん
)
宗や浄土真宗を除いたほとんどの仏教宗派、さらには神道などでも読まれているところがあるようです。
では、なぜこんんあい多くの宗派で 『般若心経」 が読まれるのでしょうか。
それは浄土宗や
臨済
(
りんざい
)
宗、
曹洞
(
そうとう
)
宗など日本仏教の多くが天台宗から出たことによります。天台宗では 『般若心経』 の属する般若部のお経は 「
通教
(
つうぎょう
)
」 と呼ばれます。般若部については後ほどお話しますが、
膨大
(
ぼうだい
)
な経典をいくつかにくくった分類のひとつです。そして般若部とは、 「すべての仏教に共通の真理を説く教え」 という意味です。この考え方が、そのまま多くの宗派に受け継がれたために、仏教共通の根本真理を説くお経は般若経であるとされ、その代表としての 『般若心経』 が広く信仰されてきたのです。
一方、天台宗と同時代に、
法大師
(
こうぼうだいし
)
空海
(
くうかい
)
(774〜835年)
が開いた
真言宗
(
しんごんしゅう
)
では、このような考え方はいたしません。真言宗は、天台宗およびその¥流れにある諸宗とは異なり、密教を柱とした宗派です。
密教とは、文字通り秘密の教えという意味ですが、この密教というのは、ただ内緒にして教えないということではありません。 「仏教の真義は秘密のように隠されている」 と考えるのです。具体的な方法としては、
印
(
いん
)
といってさまざまに指を組み
(
身
(
しん
)
)
、
真言
(
しんごん
)
といわれる呪文を唱え
(
口
(
く
)
)
、心に仏を思うこと
(
意
(
い
)
)
、の修行
(
三業
(
さんごう
)
)
によって、
即身成仏
(
そくしんじょうぶつ
)
という
仏人合一
(
ぶつじんごういつ
)
の
境涯
(
きょうがい
)
を目指します。ただし。こうした作法は、さまざまな基礎的な学習や修行を終えてから授けられるものですので、その意味では、密教の教えと一般に言われているのも理解できるところです。
空海は、この 『般若心経』 を重要な密教経典のひとつとしてとらえました。あくまでも密教的に解釈したのです。このため、真言宗でもさかんに唱えられるようになったのです。
このように、ひとくちに 『般若心経」 といっても、しゅうはによってさまざまなとらえ方があります。
ただし私は、自分のおうちの宗派が何であっても、それはそれとして大切のすれば、個人的に 『般若心経』 をお唱えするのは、決して悪いことではないと考えています。なぜなら 『般若心経」 のなかには仏教のエッセンスがすべてこめられている、と言っても過言ではなからです。具体的には、これからお話ししていくことになります。
『実践 般若心経入門』 著:羽田 守快 ヨリ
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