栄光と賞賛の日々
(四) | 「私が考えていた通りの結果になりました」 フィルミアン伯爵はレオポルトに祝辞を述べた後、今後、自分の指示に従って行動してくれるようもとめた。 「私にはある計画があります。ことがすべてうまく運べば、ヴォルフガング君はある重要な、この上なく名誉な契約を手に入れることになるでしょう。だが、急いではなりません。ここミラノでは周到な下準備が必要なのです」 この日からフィルミアン伯爵はヴォルフガングの全面的な支持者として、その辣腕
をふるいはじめた。 十一日後の二月十八日には、フィルミアン邸で盛大なパーティーが催された。 モーツァルト親子はそこでパーティーの主賓として招かれていたオーストリア皇子フェルディナント大公と、モデナの公女マリーア・リッチャルダに引き合わされた。 十六歳のフェルディナント大公は、今は第一皇子ヨーゼフU世に帝位を譲った皇太后マリア・テレージアの三番目の息子で、ミラノ行政官として母親からこの地に派遣されており、一年後に四歳年上のモデナ公女と結婚することになっていた。 「婚礼祭典の中には、ドゥカーレ劇場で行われるオペラも予定されています。作曲者を選ぶのはマリア・テレージア陛下です。さて、誰がその名誉ある仕事を手に入れることが出来ますかな?」 フィルミアン伯爵はレオポルトのかたわらに立って、意味ありげにささやいた。 約ひと月後の三月十二日にも、フィルミアン伯爵邸で大夜会が催され、フェルティナント大公やマリーア・リッチャルダ公女のほかに、およそ百五十人の貴族が列席した。 その中には、ドゥカーレ劇場の総監督カスティリオーネ伯爵の姿もあった。 「さて、われらが神童モーツァルト君は三日後に当地を発た
つことになりました。また戻り来る日まで、われわれは彼のすばらしい音楽と別れなくてはなりません。この悲しみの時を美しく彩いろど
るために、彼は新作のアリアを披露してくれるそうです」 フィルミアン伯爵の口上のあとに、ヴォルフガングは前日書いた三曲のアリアを、美しいボーイソプラノの声で歌った。 その夜会の間、フィルミアン伯爵とカスティリオーネ伯爵がたびたび話を交わしているのを、レオポルトは見逃さなかった。
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