栄光と賞賛の日々
(一) | ヴェローナで推薦状を増やした親子は、マントヴァに向かった。 ここではザルツブルクの宮廷侍従長アルコ老伯爵
のいとこに当たるアルコ伯爵が、親子でヴォルフガングのパトロンとなり、有力者への紹介や音楽会の開催に力を尽くしてくれた。 「イタリアではどこの土地にも親切な方々がおられて、私たちの滞在が快適なものになるように全力を尽くしてくださる」 レオポルトは、マントヴァでも寄せられる人々の好意に感激した。 マントヴァにはちょうど完成したばかりのすばらしい美しい劇場があって、そこのこけら落としの公演が、急遽ヴォルフガングの演奏会に変更された。 「これ以上美しい劇場は見たことがない」 「パパ、舞台の後ろにも客席があるよ!」 「ここはお前にぴったりのすばらしい劇場だ。こうしたことは、丹念に故郷に知らせておかなくいてはならない」 演奏会にはマントヴァの貴族や教会関係者や政府や市のおえらがたなど、重要な人物がすべて出席した。 ヴォルフガングはクラヴィアによる自作の演奏や、即席演奏に加えて、ヴァイオリンの即興演奏まで行ったので、観客は狂喜した。 「音楽の奇跡だ!
自然が行った類たぐい 稀まれ
なるいたずらだ!」 レオポルトは人々の熱狂ぶりに自信を深めた。自信がつくにつれて、別の思いが頭をもたげて来る。 ── 拍手、喝采かっさい
、ブラヴォー。結構なことだ。これのよってヴォルフガングが十分に理解されていることが分かる。しかしイタリアでは困ったことに、こうした会が無料で行われている。われわれはもう旅費だけで三百五十グルデンも使ってしまった。この先、好意だけしかもらえないとなると、困ったことになる。 パリやロンドンでは、われわれは演奏会を開いてずいぶん金を儲けることができたが、ここでは無理のようだ。そろそろ作戦を変えて本来の目的達成に向け、頑張らなくてはなるまい。 次なる目的地ミラノでは、ザルツブルクの宮内くない
大臣フィルミアン伯爵の遠縁に当たるカール・ヨーゼフ・フィルミアン伯爵が親子のパロトンになってくれるはずだった。 「この伯爵さまはロンバルディア全権行政官として、ミラノで絶大な権力をp持ちだ。この方に気に入られれば、おまえのイタリアでの前途はさらに開けるだろう」 レオポルトは息子には金銭上の心配を話さなかった。加えて、旅につきものの煩わしい作業は、一切させなかった。 荷を解いたり作ったり、着るものを整理したり選んだりするのはレオポルトの仕事だった。 息子の手は、ただ演奏と作曲のためにだけあるのだ。その手を雑用で汚してはならない。 |
|
|