〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-\』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻六) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/08/21 (日) 

わか   ・上 (二)
夏、懐妊した明石の女御が、六条の院に里下がりして来る。紫の上は自分から進んで女三の宮と対面する。女三の宮はただ無邪気に、やさしい紫の上に好意を持つ。
冬に入り、紫の上、秋好あきこの む中宮、冷泉れいぜい 帝の命による夕霧主宰でと、次々に源氏の四十の賀の祝宴が行われる。
翌年三月、明石あかし の女御は東宮の男子を出産した。明石の地でその慶事の報を受けた明石の入道は、年来の宿願を果たしたという喜びと、そこに至るまでの切々たる心情を長い手紙で伝えてきて、それにはもう深く山に入って足跡をくらまし、世間との交わりに永の別れを告げている。
その入道の最後の手紙で、入道が見た不思議な夢に予言された自分ら母子の、今の運命を明石の君は知る。
入道の妻の尼君は、娘の出世のため、音と生き別れになった上、ついにこの世で会えなくなった悲しさを、娘の明石の君に訴えて泣く。
源氏もこの手紙を見て感動して涙をもよおすが、それにつけても、明石の姫君を育てた紫の上の恩を忘れてはならないと女御にさとす。明石の君は紫の上を絶賛する源氏の言葉を聞きながら、自分がこれまですべてを隠忍自重してへりくだってきたのはよかったのだと思う。
三月末のうららかな日、六条の院で蹴鞠けまり の会があり、蹴鞠の得意な柏木も参加した。
その夕暮、女三の宮の住む寝殿の前の階で、夕霧と柏木が休んでいた時、女三の宮の飼っている唐猫からねこ が奥から走り出て来て、その拍子に御簾みす に紐をひっかけたので御簾の端がめくれ上ってしまい、奥に立っていた女三の宮の姿を、二人はかいま見てしまった。
夕霧はそんな不用意な女三の宮をはしたないと思ったが、柏木は前から憧れ結婚を望んでいて、まだあきらめきれず、将来源氏が出家でもしたらとまで考えていたので、この偶然のかいま見を、恋の報われるしるしかと、無上の幸運に思い、恋の気持が益々燃え上がってくる。柏木は、源氏が表面だけ取りつくろい、実は紫の上ばかりを前にもまして愛して、女三の宮がないがしろにされているという噂などを聞き、いっそう女三の宮に同情していた。女三の宮の乳母の娘の小侍従に自分の思いを訴えた手紙をいつも渡して、女三の三宮への取次ぎをせがんでいた。
小侍従は、柏木が女三の宮を見たあとに書いた手紙を、女三の宮に見せてしまった。
女三の宮は不用意な姿を柏木に見られたことより、それが源氏に知れたらと、おびえてしまう。
物語は波乱の予兆を見せながら、下の帖へと移る。
源氏物語 (巻六) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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