〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-\』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻六) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/12/13 (火) 

わか   ・下 (一)
冒頭から女三の宮への道ならぬ恋に狂いはじめる柏木の異常な行動が描写される。柏木は、かならねぬ恋に懊悩おうのう し、あの蹴鞠の黄昏たそがれ 時、女三の宮の座敷から走り出た小猫を招き寄せ抱きしめ、その猫のいい匂いに、女三の宮の移り香をしのぶという場面があった。その猫を何とかして手に入れようと、いろいろ策略をめぐらし、東宮を介してその猫を借り受け、溺愛する。猫を女三の宮に見たてて抱いて寝て、愛玩する柏木の態度は、異様でもあり、滑稽でもある。
式部卿しきぶきょう の宮は孫娘の真木柱まきばしら の姫君を柏木と結婚させたがったが、柏木は、妻は皇女という理想があり、見向きもしないしないので螢兵部卿の宮と結婚させた。
四年の歳月が流れ、この間は何も書かれていない。
源氏の四十六歳の年、在位十八年の冷泉帝は、東宮に譲位し、明石の女御の第一皇子が東宮になった。太政大臣は辞任して到仕ちじ に、髭黒は右大臣兼関白に、夕霧は大納言兼左大将にそれぞれ昇進した。
紫の上と源氏の夫婦仲は益々緊密で水も洩らさぬように見えるが、紫の上はこの頃しきりに出家の希望を源氏に訴えるようになる。源氏はもっての他といって許さない。
その年十月、源氏は紫の上や明石の女御たちと住吉すみよし 神社に盛大な願果たしの参詣をする。
女三の宮は二品にほん に叙され、格式はいよいよ高まった。
紫の上はこうしたまわりの女君たちの幸福や繁栄の中で、実子もない自分の不安定な立場を思い知り、源氏の愛が薄れてしまう前に出家したいと、いよいよ切望するようになる。
今では源氏は朱雀院と帝の手前、女三の宮を疎略に出来ないということで、紫の上と女三宮と過ごす夜が等分になっていた。それが当然と思いながら、紫の上の夜離よが れの夜の寂寥せきりょう は、いよいよ深くなっていく。
朱雀院は女三の宮としきりに逢いたがっているので、源氏は院の五十の賀宴を計画し、その日のために、女三の宮にきん の伝授をする。 紫の上にも納得させて、昼はあたりがうるさいからと、夜ずっと泊りこみで秘曲を教えこむ。女三の宮は二十、二十一歳になっているが、相変わらず幼稚で、体も未成熟の感じがして、小さく華奢でただ可愛らしい。
年が明け、源氏四十七歳になり、二月に予定した賀宴に先立って、源氏は六条の院の女君たちを集めて女楽おんながく を催した。華麗な催しの後、源氏は紫の上と来し方の思い出をしみじみ語りあう。源氏は紫の上を並外れた幸運な人だという。
今年三十七の厄年やくどし となった紫の上は、先が長くない気がするからと言って、またしても出家の許しを求めるが、源氏は相変わらず許さない。
源氏はその時、過去の女たちの性質や魅力や欠点を紫の上にこまごまと話す。その中で紫の上は最も理想の女性だと称える。
しかしその直後、女三の宮のところへ泊りに行く。
その夜中から紫の上は発病し、重病で快復の見込みも立たず、朱雀印の賀宴は流れてしまう。源氏は紫の上を二条の院へ移し養生させる。源氏はつきっきりで看病し、女三の宮の方へはぷっつりと行かなくなり、六条の院は火の消えたようになる。
源氏物語 (巻六) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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