〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-\』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻六) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/08/21 (日) 

わか   ・上 (一)
「若菜」 上は、源氏三十九歳から四十一歳の春までの話しである。
朱雀院すざくいん は六条の院へ御幸した後、病が重くなり、かねての願望だった出家を遂げようとする。その際唯一の心残りは、偏愛している女三の宮の将来であった。まだ十三、四歳の女三の宮を立派に後見してくれる頼りになる男と結婚させたいと切望する。 「若菜」 の書き出しはこの女三の宮の婿選びから始まり、朱雀院の親心の迷いが描かれる。候補者としては、螢兵部卿ほたるひょうぶきょうの宮、夕霧ゆうぎり柏木かしわぎ なども考えられるが、結局、一番頼もしいのは源氏だということになり、朱雀院は源氏に女三の宮の降嫁を申し込む。
源氏は一応辞退するつもりだったが、亡き藤壺の中宮の姪に当たるということとその若さに、心が動かぬでもない。女三の宮の裳着もぎ の式をすまし、出家した朱雀院を見舞った時、源氏は断り切れないという形で、ついにその結婚を承諾する。朱雀院四十二歳、源氏三十九歳の年の暮れであった。
翌日それを源氏から打ち明けられた紫の上は青天の霹靂へきれき で動揺するが、表面はさりげなく装い、その思いがけない運命を受け入れる。しかしこの時から紫の上の源氏への全き信頼は失われ、深い苦悩がはじまる。
年が明け、源氏四十歳の賀を祝って、誰よりも早く玉鬘が若菜を献じ、賀宴を主催した。若菜は、十二種の春の菜をいい、賀にそれを料理したものを食べると若返るとされていた。
この日源氏が詠んだ、
小松原 すゑ のよはひに 引かれてや 野辺の若菜も 年をつむべき

という歌が題名になった。玉鬘は髭黒との間に、年子の男の子を二人生み、すっかり左大将の北の方として収まっていた。
二月十日過ぎ、女三の宮が六条のいんんい降嫁してきた。
女三の宮のあまりの幼稚さに源氏は失望し、紫の上の魅力に改めて強く惹かれる。
しかし夫婦の溝は埋めることができず、紫の上は独り寝の袖を涙で濡らすことも多い。
朧月夜おぼろづきよ に君は朱雀院の出家の時、自分も出家しようとするが院に許されず、院が西山の寺へ入った後、里の右大臣邸に帰っていた。源氏はそこへ訪ねて行き、朧月夜は心弱く、拒みきれず、再び源氏と甘美な密会を重ねることになる。そのことを察知しても、男女の愛に絶望している紫の上は、もはや嫉妬さえしない。

源氏物語 (巻六) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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