宮はいかにも痛々しく、ひきつづき御気分がお悪くてお悩みの様子が、源氏の院にはやはりお可哀そうでなりません。こうして女三の宮のkとをきっぱり捨てきってしまおうと思うと、あいにくなことに、かえって憎いとばかりは思い切れない恋しさがせつなく沸き起こってくるのでした。六条の院にお出かけになって、宮にお逢いになるにつけても、胸がせつなく痛み、いとおしさがこみあげていらっしゃいます。御安産の御祈祷など、いろいろとおさせになります。表向きのお世話は、これまで通りで何も変わっていません。かえっていっそうおやさしく大切にお世話なさる御様子は、これまで以上とさえお見受けします。 けれどもお二人の間に夫婦として愛し合うことはなくなっています。源氏の院としては、もうすっかりお心が離れているので具合が悪く、人前だけはどうにかとりつくろって、お心の内ではあれこれ悩み苦しんでいらっしゃいます。それを感じて女三の宮のお心の中は、なお一層お苦しいのでした。 ああした手紙を見たともはっきりおっしゃらないのに、女三の宮がおひとりでたいそう苦しみ困りきっていらっしゃるのも、源氏の院には、いかにも幼稚で愚かしく見えます。 「全くこんなふうなお人柄でいらっしゃるから、ああしたことも起こるのだ。いくら鷹揚
なのがいいとはいっても、あまりにも頼りなく思慮が足りないのは、安心が出来ず困ったものだ」 とお考えになりますと、男女の仲というものが、すべて気がかりになられます。 「明石あかし
の女御があまりに素直すぎて、おっとりしていらっしゃるのも、衛門の督のように恋する男があらわれたら、この場合以上に夢中になって、心を狂わせるかもしれない。女というものは、この女三の宮のように内気一方で頼りなく、なよなよしているのを、男も甘く見るせいだろうか、あってはならぬことながら、ふと見てしまうと、女のほうも心の弱さから拒めず過ちを犯してしまうことになるのだ」 とお考えになります。 「髭黒ひげくろ
の右大臣の北の方の、玉蔓たまかずら
の君は、これという後見者もなく、幼い時から何とも頼りない暮らしの中で、国々を流浪してお育ちになられたけれど、才気走ってよく気がつき、わたしも表向きは親のように振舞ってきたが、けしからぬ恋心もおこらないわけではなかった。それをあの人は、角を立てずさりげなく受け流した。あの髭黒の右大臣が、ああした無分別な女房と心を合わせて忍び込んで来た時にも自分は寄せ付けなかったということを、はっきり世間にわかるようにして、その後で改めて、わざわざ親に許された結婚という形をとり、自分の責任ではないことにしてすませてしまった。こんなことはすべて、今から思えば、いかにあの人の才智にすぐれていたかということの証あかし
だ。もともと宿縁の深い二人だったからこそ、こうして長く夫婦として連れ添うことは、はじめはどんな事情だったにせよ、どっちみち、結果は同じようなものだろうけれど、女一人の一存から靡なび
いてしまった仲だとでも、世間の人に思われていたら、多少は軽蔑もされただろうが、実に見事に身を処したものだ」 とお思いになります。 |