その年もおしつまりました。朱雀院は相変らず御病気がお悪いままなので、何かとお心がせかれて女三の宮の御裳着
の式を思い立たれて、そのお支度をお急ぎになろます。後にも先にもまたとはないような厳おごそ
かな盛大な式になる様子で、誰も彼も大騒ぎしています。 式場は柏殿かえどの
の西座敷にして、御帳台や御几帳をはじめとして、和製の綾や錦は一切お使いにならず、唐から
の后の部屋飾りを御想像なさって、それに倣なら
って荘厳華麗に、まばゆいように御用意なさいました。 御腰結こしゆ
いの役は、太政大臣にかねてから御依頼していらっしゃいました。この大臣は、物事を大仰にお考えになる方なので、気が進まないけれど、朱雀院の仰せには昔から背いたことはなかったので、今回も参上なさいました。 あと二人の左右大臣や、その他の上達部かんだちめ
たちは、やむを得ない差し障りのある人も万障を排し、無理に繰り合わせて参上なさいます。 親王みこ
たちが八人の他に、殿上人でんじょうびと
はいうまでもなく、宮中や東宮御所の人々も、一人残らず出席して、世にも盛大な裳着の式となりました。 朱雀院のなさる行事というのは、おそらくこれが最後になるだろうと、帝も東宮も御同情遊ばして宮中の蔵人所ころうどどころ
や納殿おさめどの にある唐渡からわた
りの品々をたくさんお贈りになりました。 六条の院からもおびただしいお祝いの献上品がありました。来客たちへの御祝儀の品々や、人々への禄ろく
、腰結い役の太政大臣への贈り物の品々などは、すべて六条の院からさし上げられました。 秋好む中宮からも姫宮の御装束や、櫛くし
の箱を、とりわけ心をこめて御調製になります。その中に、あの昔、中宮が御入内の時、朱雀院がお贈りになられた御髪上みぐしあ
げの用具に、御祝いの意味を込めて新しく細工をお加えになったものがありますた。それでも、もとの風情は失わず、その品と分かるように作らせてあります。それらを御裳着の当日の夕暮に、お贈りになります。 中宮職ちゅうぐうしき
の権ごん の亮すけ
で朱雀院の御殿にも出仕している者をお使いとして、姫宮の方へさし上げるようにお命じになりました。中にこういうお歌が入れてありました。 |
さしながら
昔を今に 伝ふれば 玉の小櫛をぐし
ぞ 神さびにける (いつも髪にさしながら 昔の帝のお情けを今もしみじみ この身に伝えておりますので この美しい小櫛も すっかり古くなりました) |
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その歌をお見つけになった朱雀院は、身に沁しみ
みてお思い出しになられたこともありました。中宮が御自分の幸せにあやかるための贈り物として、縁起が悪くはないだろうと、女三の宮にお譲りになられた、栄えある櫛ですから、朱雀院の御返歌も昔の御自分の思い出には触れないで、 |
さしつぎに
見るものにもが 万世よろづよ
を 黄楊つげ の小櫛をぐし
の 神さぶるまで (あなたの幸運にあやかって この黄楊の小櫛を さし継いだ女三の宮が 小櫛の古るびるまで 万世までも栄えますように) |
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とだけ、お祝いのお気持をお詠みになりました。 |