若 菜
・上 (五) | 朱雀院は、姫宮がたいそう可愛らしくて、あどけなく無邪気な御様子を御覧になるにつけても、 「この女三の宮と結婚して大切に扱って可愛がってくれ、また一方では、未熟な面は大目に見て、かばって教えてさしあげられるような、頼りになる人にお預けしたいものだが」 などお話しになります。年配の主
だった乳母めのと たちを幾人かお呼び出しになって、御裳着もぎ
の支度のことなどお指図なさるついでに、 「六条の院の源氏の君が、式部卿しきぶきょう
の宮の姫君、紫に上をお育てになったように、この女三の宮を引き取って大切に育ててくれる人はいないものだろうか。臣下の中にはそうした人はとてもいそうにないし、今の帝には秋好あきこの
む中宮がついていらっしゃる。その次々の女御たちにしても、たいそう高貴な身分の方ばかりを揃えていらっしゃるから、しっかりした後見もないまま後宮に入れば、かえって辛いだろう。あの夕霧の権中納言ごんちゅうなごん
がまだ独身でいた頃に、それとなく打診してみるべきだった。あの人はまだ若いけれど、非常にすぐれていて、将来有望な頼もしい人物と思えるのに」 と仰せになります。乳母は、 夕霧の中納言は、もともとたいそう生真面目きまじめ
なお方で、長年、太政大臣の雲居くもい
の雁かり の姫君に思いを寄せて、ほかの人には見向きもなさらなかったのですが、その恋が叶って御結婚なさいましてからは、いっそうお心を動かすことはなかろうと思われます。それよりあの御父の源氏の君の方が、かえって今でも何かにつけて、女性に興味をお抱きになるお心が絶えないようにお見受けします。とりわけ、高貴の御身分の姫君をお需もと
めになるお気持が深くて、朝顔の前斎院ぜんさいいん
などを今でもお忘れになれなくて、何かとお手紙などさしあげていらっしゃるそうでございます」 と申し上げます。 「いや、その相変らずの浮気っぽい御性質こそ、どうも気がかりだけれど」 と、朱雀院は仰せになりますものの、いかにも、大勢の女君たちの間に仲間入りして辛い思いをさせられ、心外なことがあるとしても、やはりこのまま親代わりということにして、乳母たちの言うように、源氏の君に姫君をお預けすることにしようか、などとお考えになるのでしょう。 「ほんとうに少しでも世間並みな結婚をさせたいと思う娘を持つ親なら、同じことならあの源氏の君のそばに添わせてやりたいと思うだろうね。どうせ長くもないこの憂き世に生きているうちは、あの源氏の君のようにすべてに満ち足りた有り様で過ごしたいものだ。わたしがもし女だったら、実の兄妹であっても、かならず慕い寄って睦まじい仲になっていただろう。若かった時などは、よくそう思ったものだ。わたしでさえそうなのだから、まして女があの人にだまされたりするのは、ほんとうに無理もないことだ」 と仰せになって、お心の内では、朧月夜おぼろづきよ
の尚侍ないしのかみ の事などを自然に思い出していらっしゃるのでしょう。
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