夕霧の中納言は、まだ二十
にも足りないくらいのお若さですけれど、すっかり整っていて、御器量も今を盛りに色艶いろつや
が輝くようで、たいそう綺麗なのに、朱雀院はお目をとめていらっしゃいます。今その処置にお悩みになっていらっしゃる女三の宮の御結婚の相手に、この人物はどうかなど、お心の中で人知れずお考えつきになられます。 「近頃は太政大臣だじょうだいじん
の姫と縁談が整って、すかkりそちらに住みつかれたそうですね。ここ数年、何か納得のいかないような故障の話を聞いていて、気の毒に思っていたが、結婚の噂を聞いて一安心した。しかし一方やはり少々嫉ねた
ましい気もして、残念にも思っている」 と、仰せになる御表情を、夕霧の中納言は、いったいどういうおつもりでおっしゃるのかと、不審に思い、あれこれ考えをめぐらします。院が女三の宮のお身の上をいろいろ御心配なさり、お困りの末に、
「婿として適当な人があれば、姫宮を託して、心おきなく出離したい」 と、お考えになって、お口にもらされたのを、漏れ聞いた機会もありましたので、そのことを仰せになっていられるのかと、中納言は気がつきました。しかし、どうしてすぐ、呑の
み込み顔にお返事など出来ましょうか。ただ、 「わたしのように頼りない者には、なかなかいい縁も見つかりかねまして」 とだけ申し上げるにとどめました。 女房などは、几帳きちょう
などの隙から、夕霧の中納言を覗のぞ
き見して、 「まあ、なんとすてきなこと。またとはない御器量や物腰でいらっしゃるのね」 「ほんとうに御立派なこと」 など、集まってお噂しているのを、年寄りのぼけた古女房は、 「いいや、そう言っても、源氏の君がこれくらいのお若さだった時の御様子とは、とても比べ物になりませんわ。ほんとうにあのお方は目もまばゆいくらいにお綺麗でいらっしゃいましたもの」 など言い合っているのを、朱雀院はお聞き遊ばして、 「全くあの方は、御様子が世にも稀まれ
なすばらしいお人だった。今はまたあの頃より、いっそう老成して立派になり、光るとはこのようなことを言うのかと思われるほど、匂やかなお美しさが加わっていらっしゃる。威儀を正して公務に携わっていらっしゃる点から見ると凛りん
とした端麗さに目もくらみそうな感じがするが、一方、くつろいで冗談を言ったりふざけたりなさる時には、並々でない愛嬌あいきょう
があふれるようで、そういった方面でも人なつっこく惹きつけられる気がする点では、肩を並べられる者も全くなかったほどだった。何事にも前世の果報が推し量られる、世にも珍しいお人柄だった。幼い時から宮中でお育ちになられ、桐壺帝から限りなく可愛がられて、まるで撫でるように大切にされ、帝は御自分の御身にかえてもとまで御寵愛していらっしゃった。それでも源氏の君は調子に乗って驕おご
ったりせず、へりくだって、二十はたち
になるまで中納言にもならなかったものだ。 たしか二十一の年に、宰相で大将を兼ねられたのではなかっただろうか。それに比べて夕霧の中納言が、ずっと早く昇進しているのは、親から子へと世の声望がだんだん高くなっていくものらしい。たしかに政治向きの学識とか心構えなどは、この中納言もほとんど源氏の君に劣りそうでもなく、たとえその見方が誤っていたとしても、ますます貫禄がつきてきたという評判は、何としても格別のようだね」 などとおほめになります。 |