ある小家に立ち寄って、
「泊らせてくれませんか」 と常葉が頼んだところ、主の男が出てきて、 「こんな夜更け、幼い子供を連れて歩いているなど、謀反人の妻であるにちがいない。宿はお貸しできない」
と答えて、中に入ってしまった。常葉は、落ちかかる涙と降る雪が、左右の袂にびっしょりたまり、柴の編戸に顔を当てながら、袂を絞ることが出来ないまま立ち尽くしていた。主の女が、出て来て、
「自分たちは、たいした者ではありません。たとい謀反人に親切にしたからといって、咎められるなんてよもやありますまい。身分に高き、賤しきがあるとしても、女としては同じ身、お入りなさい」
と言い、常葉を中へ招き入れて、あれこれ世話してくれたので、やっと生き返ったような気になった。常葉は、二人の幼い兄弟を両脇に座らせ、自分は今一人を懐に抱いて、
「ああ、この子たちのがんぜなさよ。自分は母としてこの子らをぜひ助けたいと思っても、敵に捕えられでもしたら、情けをかけてくれるはずがない。もう少し大人だったら、今若殿を斬るか、乙若殿を刺し殺すか、牛若殿はまだ幼いので、水に入れるか、土に埋めるかして殺されるでしょう。その時、私はどうしたらいいのでしょう」
と夜通し、泣き悲しんだ。 |