あなたと読む恋の歌百首
俵 万智・著 ヨリ
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参考ファイル

幾人にも愛を分つと言ひきりし
   彼の時の君を憎み得ざりき

わがこころ君に知れらばうつせみの
    恋の籬よ越えずともよし

肌の内に白鳥を飼うこの人はおさえられ
    しかしおりおり羽ぶく

たがひはかくて深くなるものか
    あまりにひとをおもひせまりて

やまてる愛などありや
    冬の夜に白く濁れるウリーブの油

私をジャムにしたならどのような香りがたつかブラウスを脱ぐ

幾億の生命の末に生まれたる
    二つの心そと並びけり

一生の暗きおもひとするなかれ
    わが面の下にひらくくちびる

君かへす朝の舗石さくさくと
    雪よ林檎の香のごとくふれ

あの夏の数かぎりなきそしてまた
たった一つの表情をせよ

観覧車回れよ回れ
想ひ出は君には一日我には一生

うら恋しさやかに恋とならぬまに
 別れて遠きさまざまの人

美しき誤算のひとつ 
   われのみが昂ぶりて逢い重ねしことも

われらかって魚なりし頃かたらひし
藻の蔭に似るゆふぐれ来る

君の眼に見られいるとき
私はこまかき水の粒子に還る

ゆるされてやや寂しきは
しのび逢う深きあはれを失ひしこと

月面に脚が降り立つそのときも
われらは愛し愛されたきを

やがて死が堰き隔てむに
忘失の刻あり人は生きて別るる