桂林荘雑詠けいりんそうざつえい 諸生しょせいしめ
廣瀬 淡窓
天明二 (1782) 〜 安政三 (1856)

遥思白髪倚門情

宦學三年業未成

一夜秋風揺老樹

孤窓欹枕客心驚
はる かにおも白髪はくはつ もん るのじょう
宦学かんがく 三年さんねん ぎょう いま らず
いち しゅう ふう 老樹ろうじゅゆる がし
そう まくらそばだ てて客心かくしん おどろ

故郷の年老いた白髪の父母は、わたしの帰りを一日千秋の思いで待ちわびておられることであろう。
しかし、わたしは留学して三年の月日を重ねているのに、学業はまだまだ完成しそうにない。
そうした思いでいる或る晩、窓を通して聞こえてくる秋風が、庭の老木を動かすさびしい音に、旅寝の夢を破られ、老いた父母の安泰を願ったのであった。