(通 釈)
牡丹の花と絶世の美人が、玄宗皇帝の心を喜ばせる。
君王は笑いを含んで、ずっと眺めたもう。
春風のもたらす限りない恨みを解きほぐし、いま絶世の美人は沈香亭の北の手すりにもたれている。
○名花==牡丹の花。
○傾国==美人をさす。ここでは楊貴妃をさす。
○沈香亭==興慶宮にあったあずまやの名。
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(解 説)
李白が玄宗皇帝の前で、牡丹の美しさと貴妃の美しさを詠んだもの。
三首連作の第三種めの作品。
(鑑 賞)
この詩は三首とも 『唐詩選』 にとられている。どれをとっても、牡丹と美人とを不即不離に詠っている。いかにも大唐の春を謳歌した華やかな作品である。
(備 考)
白居易三十五歳の作の 「長恨歌」 を簡単に開設しておく。
長編叙事詩の 「琵琶行」 とともに 「長恨歌」 は人口に膾炙したものである。
全編百二十句、八百四十字からなる 「長恨歌」 は白居易の特色である平易流麗で、劇的要素に富んでいる作品である。その大意を掲げてみる。
絶世の美女楊貴妃を得た玄宗は、貴妃を寵愛するあまり、政務を忘れて歓楽の限りを尽くした。そのため、安録山の反乱を引き起こし、夢は破られ、蜀へ都落ちするはめになった。
その途中、馬嵬 (バカイ)の駅で貴妃は殺され、一人取り残された玄宗は貴妃追慕にくれた。
乱が治まって、都へ帰っても、思いは募るばかり。ここで道士が登場し、仙界へ貴妃の魂を求めて探り当て、形見の品を受け取り、死しても変わらぬ愛の誓いの言葉を持って帰ってくる。
この 「長恨歌」 は後世の戯曲にも大きな影響を与えた。たとえば元曲では白仁甫の 「梧桐雨雑劇」 であり、明曲では屠隆の 「彩毫記」
であり、清の伝奇、洪昇の 「長生殿」 などである。わが国へも多大な影響を与えた。 『源氏物語』 の桐壺の巻をはじめ、 『枕草子』 『和漢朗詠集』
『大鏡』 『更級日記』 『平家物語』 『源平盛衰記』 『太平記』 等々に引かれ、明治以降でも、菊池寛の 『玄宗の心持』 や岡本綺堂の
『長恨歌』、井上靖の 『楊貴妃伝』 などがある。
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