かく ちゅうさく
李 白
701 〜 762

らん りょう しゅ うつ きん こう

ぎょく わん きた はくひかり

ただ しゅ じん をしてきゃく わしめば

らずいず れのところ きょう
蘭陵美酒鬱金香

玉椀盛來琥珀光

但使主人能醉客

不知何處是他郷

(通 釈)
蘭陵の美味い酒は、鬱金香のような芳香を放っている。
美しき杯に盛れば、琥珀色に光り輝く。ただ、この宿屋の主が、旅人の私を十分に酔わせてくれさえすれば、いったい、どこが他郷なのであろうか。故郷にいるのと少しも変わりはしない。

○客中==旅の途中。   ○蘭陵==美酒の産地。
○鬱金香==西域に産するうっこうん草から取った香料。これで酒に香をつける。ここでは芳香を放つ酒をいう。
○玉椀==美しい杯。
○琥珀==酒の色を美しくいったもの。
○但使==ただ〜〜しさえすれば。
○主人==宿のあるじ。
○客==旅人。李白自身をさす。


(解 説)
他郷にあっての感懐を述べたものである。
李白が都長安を追放され、三東地方を放浪していたころの作品とみられる。
詩題は 「客中行」 となっているものもある。
(鑑 賞)
この詩は文字の照応がある。すなわち、起句の 「蘭陵」 は地名であるが、 「蘭」 の字が 「鬱金香」 に応じている。また起句の 「酒」 は承句の 「琥珀」 の色に応じている。 また、 「玉」 と 「琥珀」 が相応じて美しい。
前半の二句は、酒の香と色を表現し、転句の 「但」 「能」 の二字は屈折した表現で旅愁を呼び起こす語句である。
蘭陵で作られる美酒。鬱金香は本来、西域から中国へ移植された香草である。その香草の名をとった酒は、唐代の人々には、つよい異国の情趣を感じさせたものと思う。
承句は李白の感覚的な好みが集中している句である。酒を色彩で表現しているのみならず、その上 “光” としてとらえているところに新鮮さがみられる。
旅先で十分に酔わせてくれさえすれば、他郷としての侘しさはなかろう。結句の 「知らず何れの処か是れ他郷」 は酒を愛し、また、旅を愛する李白らしい気分、つまり、こだわりのない気分に溢れているようだ。