ぼう ろういん
伊藤 博文
1841 〜 1905


ごう どう どう 大空たいくうよこ たわる

につ とう たれてい をしてさか んならしむ

高楼こうろう かたむ くす三杯さんばいさけ

てん 英雄えいゆう がん ちゅう
豪気堂堂横大空

日東誰使帝威隆

高樓傾盡三杯酒

天下英雄在眼中

(通 釈)
高楼に登ると豪壮な気が雄大に大空に横たわっている。この日本の中で、天皇の威光を世界に輝かせることができるのは、いったい誰であろうか (それが出来るのは、我輩の外にはあるまい) 。
高楼に登って大杯の酒を重ね、豪気を満喫すれば、世界の歴史に現れた英雄も、眼の中に入ってしまうほどちっぽけに見えてくる。

○豪気==豪壮雄大な気。   ○日東==日本国のこと。
○帝威==天皇の威光。
○三杯酒==沢山の酒という意味。
○在眼中==眼の中に入るくらい、ちっぽけである、ということ。
眼中に無し、というところを、人の意表をついた言い方である。


(解 説)
高楼で酒を呑み、高揚した気分を詠じた、英雄というにふさわしい詩である。吟題を別に 「偶成」 とするものもある。
(鑑 賞)
酔余とはいえ、まことに覇気に富んだ詩である。しかも、これほど強烈な自己主張をしているにもかかわらず、あまり嫌味になっていない。
制作がいつの頃かはわからぬながら、外交における成功に得意満面といった趣があるので、下関条約締結の頃か、または、日朝協約を結んだ頃であろうと推測できる。
大杯に注がれた酒とともに、天下の英雄をも一呑みにしてしまう、驚嘆すべき気概に満ちた詩である。