(通 釈) 亀山上皇の御代に築かれた防塁も、いまでは崩れて荻や蘆がぼうぼうと生い茂っている。 このようなありさまの中からでは、昔、ここで、武者どもが勇ましく戦ったことなど想像も出来ない。 川を見ながら、昔の戦のことを話すのはやめよう。往時と少しも変わらない川の流れと月の光とが、私の心にものの哀れを感じさせ、堪えられないほどだから。
○亀王==亀山上皇。文永の役に際し、 「敵国降伏」 を祈願した。現在、福岡市東公園に銅像が立っている。 ○城塁==文永十一年 (1274) の元軍襲来の後、執権北条時宗が博多湾に沿って築かせた石塁。 ○荻蘆==おぎ と あし。 ○昨日==昔日の意。 ○英雄==元軍と戦い、これを退けた武者どものこと。 ○長江==長い川。中国では、長江といえば揚子江のことであるが、ここでは、福岡市東部を流れる御笠川をさす。 ○往事==昔のこと。文永・弘安の役をいう。 ○灘声==川の流れる音。