くま かわ ざつ えい (二)
廣瀬 淡窓
天明二 (1782) 〜 安政三 (1856)


観音かんのん かく じょう 晩雲ばんうん かえ

たちましょう せいすい ずる

さい ふねあらそ うてひと いまわた らず

そう そうはく こうえい じて
觀音閣上晩雲歸

忽有鐘聲出翠微

沙際爭舟人未渡

雙雙白鷺映江飛

(通 釈)
観音閣上に夕雲が帰って来る。その雲に見とれているうちに、ふと山腹から鐘の音が聞こえてくる。その音に我にかえって渚に目を転ずれば、客が渡し船の席を奪い合って、なかなか船が出せないのが見える。
おりから、二対の白鷺が、下界の人間の争いなど気にもならぬげに、美しい色を川面に映して、心地よく飛んでいる。

○晩雲==暮雲、即ち夕暮れの雲のこと。
○忽==そうこうするうちに。
○翠微==山の中腹から八合めあたりをさす。観音閣の鐘楼は、その 「翠微」 にある。
○沙際==渚。水際、砂浜というのも同義。
○争舟==渡し舟に先を争って乗ること。
○人未渡==客同士が席を争って収拾がつかず、なかなか舟が出せぬ状況をいう。
○双双==「双」 は二つ一対の意。「双双」 と重ねて二対をいう。
○白鷺==しらさぎ。水鳥である。


(解 説)
同題三首連作のうちの第二首。
第一首がやや幻想的な趣をもつのに対して、この詩では、隅川とその辺の夕暮れの閑雅な風景を具象的に描いている。
一幅の絵画を見るようである。