(通 釈) 観音閣上に夕雲が帰って来る。その雲に見とれているうちに、ふと山腹から鐘の音が聞こえてくる。その音に我にかえって渚に目を転ずれば、客が渡し船の席を奪い合って、なかなか船が出せないのが見える。 おりから、二対の白鷺が、下界の人間の争いなど気にもならぬげに、美しい色を川面に映して、心地よく飛んでいる。
○晩雲==暮雲、即ち夕暮れの雲のこと。 ○忽==そうこうするうちに。 ○翠微==山の中腹から八合めあたりをさす。観音閣の鐘楼は、その 「翠微」 にある。 ○沙際==渚。水際、砂浜というのも同義。 ○争舟==渡し舟に先を争って乗ること。 ○人未渡==客同士が席を争って収拾がつかず、なかなか舟が出せぬ状況をいう。 ○双双==「双」 は二つ一対の意。「双双」 と重ねて二対をいう。 ○白鷺==しらさぎ。水鳥である。