おう せい あまはし だて
釈 希世
1403 〜 1488


碧海へきかいちゅう おう ろく まつ

てん きょうぜつ けい せん しょう

よる ふこ うしてひとりゅう とう ずるを

つきもん じゅ どう かね
碧海中央六里松

天橋絶景是仙蹤

夜深人待龍燈出

月落文殊堂裏鐘

(通 釈)
青海原の真中に松の緑が六里も続いている。それは仙人の遊んだ足跡と思われるほど美しい景色である。
夜が更けてきらめく龍灯の光が出てくるのを待っていると、やがて月も沈む頃、文殊堂の鐘の音が水を渡って響いてきた。

○碧海==青海原。
○六里松==六里も続く砂嘴の松。
○天橋==天の橋立。
○仙蹤==仙人の足跡。
○龍燈==海中の燐光がときに燈火のように現れるもの。龍宮の燈火。
○文殊堂==天の橋立の南方にある天橋山智恩寺。


(解 説)
京都府の北部、丹後、宮津の天の橋立の素晴らしい風景を詠じた詩。
「応制」 はなく、単に 「天橋立」 と題している本もある。
「応制」 とは、天皇の命によって詩を作ることの意であるが、この詩が、いつ、どのような状況の下で 「応制」 詩として作られたのかは詳らかでない。
(鑑 賞)
起・承句は、天橋の立を眺望するのに最も良いといわれる北岸の成相山からのものであろう。、さながら一幅の絵のように美しく詠われている。
転・結句では、 「月」 「鐘」 を添えての情趣を、さらに深めている。
「月」 を出して、是までの情景が月明りの下で照らし出されたものであることを示し、「月は落つ」 と、さらに、それを暗転させる。そこへ 「鐘」 の音を響かせたのである。
明から暗へ、視覚から聴覚へと見事な場面の展開である。心に響く鐘の音の余韻を残したまま、この詩は終るのである。