まつ しま
岩渓 裳川
1852 〜 1943


すい 茫茫ぼうぼう にち かね

きょう とう ばん じょう きょううご かす

かい りゅう いわやかえ って金燈きんとう めつ

あめ せいおく ってらん しょう
水寺茫茫日暮鐘

驚濤萬丈盪詩胸

海龍歸窟金燈滅

雨送餘醒入亂松

(通 釈)
海辺の寺 (瑞巌寺) の夕暮れの鐘が広々と果てしない海上に響きわたり、さかまく万丈の大波は、わが詩情を激しく揺り動かす。
海竜もいわやに帰って、かがやく竜灯も消えてしまい、真っ暗な夕闇を、雨がなまぐさい竜の臭いのんごりを送って、島々の入り乱れた松の木立に吹き込んでいる。

○松島==宮城県宮城郡、仙台湾の支湾一帯の景勝地。二百六十余の小島があり、日本三景の一つ。
○驚濤==さかまく大波。怒涛。
○盪詩胸==詩情を激しく起こす。「盪 」 は揺り動かす。
○窟==いわや。岩穴。竜の住む岩あな。
○金燈==金色に輝く灯り。海中の鬼火で、竜が捧げるという。
○余醒==あとに残るなまぐさい臭気。竜の体臭のなごり。
○乱松==入り混じっている松。秩序なく生えている松。


(解 説)
日本三景の一つ、松島に遊んだ時の作。
(鑑 賞)
夕闇迫る松島は、昼間とはうって変わったものすごさがある。それを動的にとらえた手腕もさることながら、それを東方地方に伝わる竜神・竜燈の民間信仰を引用して強調している点に特色を示している。