(通 釈) 海辺の寺 (瑞巌寺) の夕暮れの鐘が広々と果てしない海上に響きわたり、さかまく万丈の大波は、わが詩情を激しく揺り動かす。 海竜もいわやに帰って、かがやく竜灯も消えてしまい、真っ暗な夕闇を、雨がなまぐさい竜の臭いのんごりを送って、島々の入り乱れた松の木立に吹き込んでいる。
○松島==宮城県宮城郡、仙台湾の支湾一帯の景勝地。二百六十余の小島があり、日本三景の一つ。 ○驚濤==さかまく大波。怒涛。 ○盪詩胸==詩情を激しく起こす。「盪 」 は揺り動かす。 ○窟==いわや。岩穴。竜の住む岩あな。 ○金燈==金色に輝く灯り。海中の鬼火で、竜が捧げるという。 ○余醒==あとに残るなまぐさい臭気。竜の体臭のなごり。 ○乱松==入り混じっている松。秩序なく生えている松。