かん がく
木戸 孝允
1833 〜 1877


おそ しと いえど積歳せきさい おお ければ

高山こうざん 大沢だいたく ぐるに えたり

いつ きく 泉巌せんがんみず

なが れて汪洋おうよう ばん なみ
駑馬雖遲積歳多

高山大澤盡堪過

請看一掬泉巖水

流作汪洋萬里波

(通 釈)
いかに足の遅い馬でも、倦まずたゆまず、長年月かかって歩み続けるならば、どのような高い山でも大きな沼沢地でも、すべて通過することができる。
ほんの一すくいほどの岩間の泉も、絶え間なく湧き出でて流れて止むことがなければ、ついには広々と果てしない大海万里の波ともなるのである。
そのように人も不断の努力を摘む事が大切であって、多少の才能などは問題ではないのである。

○駑馬==足ののろい馬。才能の乏しい人間に例える。
○積歳==年を経る、歳月を積み重ねる。
○大沢==大きな沼沢地
○一掬==掬はすくう。両手で一すくいするほどのわずかな量。
○汪洋==海の広々として果てしないさま。


(解 説)
題名どおり時代を担う青少年に学問に励むべきことを述べたもの。
製作の時期はわからないが、維新以後の作であることは、その内容から推すことができる。
自ら希世の才能を持ちながら、その才能を恃まず、絶えざる努力を積むことにより大事業を成すべきことをいっている。
(鑑 賞)
自己の “生 (ナマ)” の体験から出たものである所に、この詩の生命がある。
「勧学」 の詩は、ややもすれば、道学先生的臭気が目だち、深い感銘を人に与えないものであるが、この詩は、幕末混乱の世に声明を賭して国事に奔走し、ついに維新の大業を成した志士の偽らざる体験の結果を述べたものであって、その真摯な心の声に深く傾聴すべきである。
当時、創業早々にして前途に多難の困難が横たわっていたが、絶えざる努力精進をもってすれば、これを打開し得るとの希望と自身とが字句の間からうかがわれる。