えじ ぷと かい
塩谷 節山
1878 〜 1962


三角さんかく りょう れて歳月さいげつ はる かなり

かい しん ぞう りて きゅうぼつ

帝魂ていこん かえ らずはん

ただ 大江たいこうきゅう にに ってなが るる
三角陵荒歳月悠

怪~像古没沙丘

帝魂不返繁華盡

唯有大江依舊流

(通 釈)
ピラミッドは荒れ果てて、つくづく月日の経過のはるけさが思われる。
かたわらのスフィンクスもまた古びて半ば砂丘の間に埋もれてしまっている。(復活の願いを込めてミイラを納めたピラミッドはありながら) 古代の帝王の霊魂は再び生き返ることもなく、当時の華やかなエジプト文明も跡形もないのである。
今はただ、ナイルの大河が昔ながらに流れているのを見るだけである。

○埃及==エジプト。
○三角陵==ピラミッド。
○怪神像==スフィンクス。
○帝魂不返==王の霊魂は戻ってこない。
○繁華尽==賑わい栄えた古代エジプトの文明も、今は跡形もなく滅んでしまった。
○大江==大きなナイル川。


(解 説)
欧米歴訪の途次、エジプトの首都カイロの郊外にけるピラミッド・スフィンクスなどの戸籍を訪ねた時の懐古の情を叙べたもの。昭和七年の作。
(鑑 賞)
三角陵のみならず、これに怪神像を配したのもよく、 「帝魂不返」 の句も、古代エジプトの霊魂信仰を取り入れておのずから新意を出している。複雑な内容を持たせながら大柄な句づくりで調子も古めかしく力強い。