やまよる
嵯 峨 天 皇
786 〜 842


きょうつ してこん へい ねむ

山?さんけい ぎょう てんほう

おぼ えずくも たってころも あん湿うるお

すなわいえ深渓しんけいほとりちか きを
移居今夜薜蘿眠

夢裏山?報暁天

不覺雲來依暗濕

即知家近深渓邊

(通 釈)
今夜は久しぶりに宮中から出て山中に宿る。
あたりは、まさきのかずらやさるおがぜが垂れ下がった木深いところ、心も落ちつき、旅の疲れもあって、ぐっすり眠ったことである。
夢がまだ覚めやらず、うとうとしているときに、山鳥のしきりに鳴く声が聞こえて、はや夜明けとなったが、まぎれもなく、なるほどこの家は深い谷川の近くにあるのだ、ということがわかったのである。

○薜蘿==まさきのかずらとつたかずら。
○夢裏==夢の中。裏は中の意。
○山?(サンケイ)==やまどり。山鳥。
○暁天==明け方の空。あけがた。
○暗濕==「暗」 は、それとなく。いつしか。知らない内に。


(解 説)
嵯峨天皇が、山荘に仮泊されたときの感興を述べられた詩である。
譲位後まもない天長初年の作。
(鑑 賞)
山中の仮の宿りを物珍しがられているさまがよく出ている。特に転句がよい。
湿度の高い渓辺の暁の実感が、さながら伝わってくるようだ