(通 釈)
今夜は久しぶりに宮中から出て山中に宿る。
あたりは、まさきのかずらやさるおがぜが垂れ下がった木深いところ、心も落ちつき、旅の疲れもあって、ぐっすり眠ったことである。
夢がまだ覚めやらず、うとうとしているときに、山鳥のしきりに鳴く声が聞こえて、はや夜明けとなったが、まぎれもなく、なるほどこの家は深い谷川の近くにあるのだ、ということがわかったのである。
○薜蘿==まさきのかずらとつたかずら。
○夢裏==夢の中。裏は中の意。
○山?(サンケイ)==やまどり。山鳥。
○暁天==明け方の空。あけがた。
○暗濕==「暗」 は、それとなく。いつしか。知らない内に。
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(解 説)
嵯峨天皇が、山荘に仮泊されたときの感興を述べられた詩である。
譲位後まもない天長初年の作。
(鑑 賞)
山中の仮の宿りを物珍しがられているさまがよく出ている。特に転句がよい。
湿度の高い渓辺の暁の実感が、さながら伝わってくるようだ |