しゅん しょ かんしょ
安積 艮斎
1791 〜 1860


ばい けい りゅう こころたが

いてちょう って

ぎん しょく かげ かす かにしてしゅん えん さん

まん じょう風雪ふうせつ よる ふこ うしてかえ
野梅渓柳與心違

強把朝衣換布衣

銀燭影微春宴散

滿城風雪夜深歸

(通 釈)
野に咲く梅や谷に枝だれる柳を、気ままに愛でるといった、肩の張らない民間の生活を終生楽しむつもりでいたのに、官命黙しがたく、これまでの布衣を官服にかえ、出でて仕える身とはなった。
これ全くわが平生の志とは異なるものである。まことに官界とは窮屈なもので、殿上の明るく輝く銀燭の灯も薄れ、恒例の春の宴も散じ、城下の街に風雪の舞う中を、夜ふけて帰路につくとは、さてさて因果なことである。

○朝衣==朝廷で着る衣服。官吏の制服。
○布衣==綿布でこしらえた着物。官位のない者が着る。
○銀燭==銀の燭台に灯した灯火。また明るい灯火。
○春宴==春また正月の宴会。


(解 説)
春の初めに普段から心にもっている感想を述べたもの。
いつ作られたか判らないが、艮斎は公職に束縛されて自然を楽しむことが出来ないのを厭う心持が次第に強まっていたようである。
晩年、昌平黌教授となったが、この名誉ある職もその望む所ではなかったのである。
(鑑 賞)
もとより宮仕えを潔しとしない作者にとって、窮屈な裃をつけて宴会に出ることは誠につまらない。その席もやっとお開きになってほっとするところであるが、さて帰りは身を切るような風雪、夜更けの道を帰っていくのはつくづく厭になる。
陶淵明の境地を胸に描きながら、現実から脱することが出来なかった作者の悩みがよく詠じられている。