○挽==死を悼んで詩歌を作る。もと葬儀のとき柩を乗せた車を引きながらうたう歌を挽
(輓) 歌という。
○赤城熱血==切腹した赤穂四十七士の忠烈をいう。
乃木将軍は江戸麻布日ヶ窪の長州候上屋敷内で生まれた。そこはかって赤穂四十七士の一部の者がお預けになり、自刃した所で、将軍の父は四十七士を武士の鑑として常に語り聞かせたという。
「熱血」 といったのは、はげしい真心というだけでなく、切腹したことにかけていっている。
○餘瀝==あとに残したしずく。今も残る影響。
将軍の体内に忠義の精神を残し、将軍は君のために切腹している、そこまで響かせて解してよかろう。もと杯の酒などの余ったしずくをいい、転じて人の恩恵に例える。ここでは、上の
「熱血」 受けていい、後世まで残った影響の意になるが、四十七士が切腹した所であるから、縁語で 「熱血」 といい、また
「餘瀝」 といったのである。
○松下遺風==吉田松陰の松下村塾の教育の後世に残した影響。
乃木将軍は十六歳の時、伯父玉木文之進のもとに奇遇してその薫陶を受けた。文之進は吉田松陰の叔父であり、またその師でもあった。文之進は将軍に対し、松陰の
『士規七則』 などを与え、武士の心得などを教えた。将軍は松陰から直接教えられなかったが、その影響を受けたことは多大であった。
○伝不言==教えなくても自然に伝わる。
松陰が直接教えなかったことも含めている。
○心事==心に思う事柄。心中の考え。
○明明還白白==きわめて明白である。純粋ではっきりしている。
乃木将軍は西南の役で敵に軍旗を奪われ、さらに旅順の戦いに数万の死傷者を出したことを、罪万死に値すると考えていた。ただ、明治天皇の御仁慈により、かりそめの命を保っていたが、その明治天皇が崩御された今は、寸刻もこの世に長らうべきではないと考えて自殺を遂げたのである。作者はこうした将軍の心境は、きわめて純粋かつ明白であるとしている。
○神洲==神国。わが国の美称。神が開き神が守る国。
○正気==万物の根本である純粋な気。宇宙に満ちふさがる正しい活力。正大の気。
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