(通 釈) 東山三十六峰は一面の雲に覆われて淋しく薄暗く、京都の町中も郊外も雨がびしゃびしゃと乱れ降っている。 この雨の中を破れ笠をかぶり、ぬのこをまとい、殉難烈士の墓前に涙を流してぬかずけば、秋気はことのほか肌に冷たく感ずるのである。
○三十六峰==京都東山の峰々。 ○漠漠==広くとりとめのないさま。さびしいさま。ここでは薄暗い意も含まれている。 ○洛==京都のこと。中国の洛陽の都から転じた。 「洛中洛外」 は京都の市中と郊外。 ○紛粉==乱れ降るさま。 ○破? (はとう) ==破れ笠。 ○短褐==布子。丈の短い粗末な布で作った着物。賎しい身分の人が着る。 ○揮==まきちらす。ぽたぽた落とす。 ○殉難==国家の危機を救う為に命を捨てること。 ○烈士==気性が激しく節義を守る人物。 ○墳==墓。土を高く盛り上げた塚。