がく
乃木 希典
1849 〜 1912


りょう そう たる がく せん しゅうそび

かく しゃく たるちょう はつ しゅう らす

くを めよ 風物ふうぶつ

れい 人傑じんけつ しん しゅう
崚?富嶽聳千秋

赫灼朝暉照八洲

休説區區風物美

地靈人傑是~洲

(通 釈)
霊峰富士は、まことに気高く雄々しく、千年万年の昔から今も変わらぬ変わらぬ姿で聳えている。
この峰から昇る朝日はあかあかと国じゅうをくまなく照らしている。実に、この山は大日本国の象徴である。
あれこれと細かく、諸々の風景などを述べたてることはいらない。
土地はあらたかで、傑出した人物に富む、これこそ、わが国が神国たるゆえんである。

○富嶽==富士山。
○崚?(りょうそう)==嶺が重なって高く聳えるさま。
○赫灼==あかあかと照り輝くさま。  ○朝暉==朝日の光
○八洲==大八洲国 (おおやしまぐに)、わが日本のこと。
○区区==細かいさま。 ○風物==風景、景色。
○地霊人傑== 「地霊」 は土地があらたかんま意。 「人傑」 は人物が秀でている意。


(解 説)
雄大な霊峰富士は、土地も霊妙、人物も傑出しているわが神州をよく象徴しているとの信念を詠じている。作者晩年の作。
(鑑 賞)
富士山の美しさは象徴的である。しかも、千変万化する霊峰の大観のうち、最も崇高なのは、朝日に照り映えるその姿である。
将軍の和歌に
「朝日さす 富士の神山 仰ぎ見れば 心もそらに すみわたるなり」
とあるが、この詩と同じ感激を歌ったものであろう。
ただ詩の方では 「地霊・人傑」 に及ぼし、神州の神州たるゆえんをいっている。
これは将軍の国体観念がおのずと詩的に表現されたもので、単なる理屈の詩と解すべきではない。