ごく ちゅうさく
高杉 晋作
1839 〜 1867


よる ふかひと さだ まって りん しずか なり

たん しょく ひかりさむ へきかん

げんしゅう じょう げんうらみ

きみおもちちおも うてなみだ 潸潸さんさん
夜深人定四隣閑

短燭光寒破壁

無限愁情無限恨

思君思父涙潸潸

(通 釈)
夜はしんしんと更けわたり、人はとうに寝静まって、あたりはまったくひっそりしている。
一人起きている私の、この野山の獄の室内の壁は破れ損じ、それをまた淡々と丈低い燭台の灯火が照らしている。
(時まさに物情騒然、しかも、歴史は今音を立てて動いている。それだのに讒人ばらの訴えるところとなり、) こうして獄舎に幽閉されていることは無限の愁いであり、恨んでも余りあることである。(しかもわがご主君ご自身勅勘こうむる身、わが父とて藩のためにどれほどか心労しておられるであろうに。) ご主君のこと、父上のこと、あれこれ思えば涙がとめどもなくあふれ流れてやまないのである。

○四隣==近隣、隣近所の意もあるが、ここではあたり、四辺の意。
○短燭==丈の低い燭台。
○潸潸==涙のしたたるさま。


(解 説)
この詩は深夜の獄中における君父を思う悲憤の情を述べたもの。元治元年、晋作二十六歳のとき、長州萩の野山の獄中で作られた。
(鑑 賞)
起・承は獄中の実景で、凄涼たる夜気が身に迫るのを覚える。それに比べると、転・結は、作者の胸中を述べて、まことに悲壮であるが、なお、情がありあまって言葉が及ばない感がある。