アカ セキ セン チュウサク
伊形 霊雨
1745 〜 1787


チョウ フウ ナミヤブ ってイツ パン カエ

ヘキ カイ ハル かにメグアカ セキ

サン ジュウ ロク ダン くゆく きんとホツ

天辺テンペン ハジ めて鎮西チンゼイヤマ
長風破浪一帆還

碧海遥囘赤馬關

三十六灘行欲盡

天邊始見鎮西山

(通 釈)
遠いかなたから吹いてくる風に送られ、わが乗る帆かけ舟は波を蹴立てて周防灘から赤馬関に向かい、青海原は岬や島影に遮られながら回り続いている。
三十六ヶ所の急流の難所も乗り越え、やっと波の平らかなる所に出ようとするとき、はじめて雲のかなたに九州の山が見えてきた。
ああ、なつかしい。わが故郷がようやく近づいてきたのだ。

○赤馬関==今の山口県の下関のこと。馬関ともいう。
○長風==遠くから吹いて来る風のこと。
○一帆==一隻の舟。 ○碧海==青海。
○三十六灘==三十六は実数でなく数の多い形容
○鎮西==九州。
元明天皇の和銅十四年十二月に筑紫に鎮西府を置き、九州諸国を鎮護せしめた。


(解 説)
故郷の熊本に帰ろうとして、船で周防灘から赤馬が関に回り、かるかに九州の山を望み、懐かしさの余りつくったもの。
藩命により京都に遊学しての帰途の作であろう。題が 「赤間関舟中」 となっているものである。
(鑑 賞)
この詩の良さは転結にある。長い船旅のすえ、初めて天辺に九州の山が見えたという、故郷を懐かしむその時の実感がよく出ている。起承もよい句であるが、焦点は転結にあって、それを助けるものとして役立っているのである。