○紛粉==ごたごたしてわずらわしいさま。乱れるさま。
○世事==世間のこと。社会の出来事。政治上の問題など。
○旧恨新愁==以前に、また近ごろ亡くなった知人に対する恨みや愁い。
○人==夢に見た舊恨新愁の人たち。
○檐==ひさし。のき。
○紫荊花==花蘇芳 (ハナスオウ) 。紫荊は蘇芳のことで、熱帯アジア原産の豆科の小高木、また低木。
『続斉諧記』 に、
田新の兄弟三人が相談して遺産を分けたが、堂前の一株の紫荊樹を三分しようとしてこれを切りかけたが、たちまち樹が枯れて、まるで火の燃えるようなさまになったので切るのをやめた。するとまたもとのように勢いよく茂ったので、兄弟はこれに感じていったん分けあった財産を一緒に合せて仲よく協力するようになった。
と、ある。
この故事から兄弟が仲よく父の財産を共有していることをほめて 「紫荊花」 というようになった。
義堂の時代は南北朝が分立して天下が騒然たる状態だった。それは、兄弟が互いに遺産をわかって譲り合わない状態に似ている。ここで
「紫荊花」 を出していたのは、兄弟が従来の態度を改めて遺産を共有して家が栄えたように、南北朝の合一によって天下の泰平を来たすことの意を寄せたものであると思う。
なお、南北朝が合一したのは、義堂の死後四年目のことであった。
|