あい とう
本宮 三香
1877 〜 1954


ひゃく さい人生じんせい ついまった からず
かな しむきみかく って黄泉こうせんいた るを
ぜん なみだ んで冥福めいふくいの
はらわた薫香くんこう 一片いつぺんけむり
百歳人生竟不全

哀君爲客到黄泉

墓前呑涙祈冥

腸斷薫香一片煙

(通 釈)
人生百年の命を全うすることが出来ずに、君が冥土へ旅立たれたのは誠に悲しみにたえない。
君の墓前にたたずみ、悲しみの涙を呑んで、ただ冥福を祈るばかりである。
手向ける香の煙りの一筋を、腸も千切れるような思いで見つめるのである。

○竟==畢竟、けっきょく、ついに。
○不全==完全でない。百歳までは生きることが出来なかった。
○黄泉==死者の行くところ、冥土。


(解 説)
人の死を悼み、墓前に吟じ捧げる為の詩。
葬儀の折に追悼の心を表す詩としてよく吟じられている。

(鑑 賞)
痛恨の極み、これに過ぎるものはないといった詩境である。
起・承・転・結 いずれの句をみても、、 「不全」 「哀」 「到黄泉」 「涙」 「冥福」 「断腸」 といった具合に、哀悼の意を表す語を用いている。
この詩が、葬儀の席でよく吟じられるのは、家族や隣人を失った時に共通に抱く情感が詠い込まれているからであろう。
こういう詩を吟ずる時は、一般の詩と異なって、余計な思い入れなどせず、むしろ淡々と詠じたほうがいいのではあるまいか。