(通 釈)
橋のあたりに二羽のつばめが住んでいる。ひらりひらりと身軽に飛ぶ雄と雌が、せっせと泥をくわえて来て、二本の垂木の間に巣を作り、その巣に四羽の雛を産んだ。
その四羽の雛は日ごとに成長し、食べ物を欲しがって絶えずピーピーと鳴きたてる。
餌になる青虫は簡単に捕らえられないのに、雛たちは満ちたりる時がない。
親鳥の嘴や爪は傷つきそうだけれども、雛鳥の為に気力にあふれ疲れを覚えない。
わずかな間に十回も往復するのだが、それでも、まだ巣の雛たちが腹をすかしてはいないかと心配する。
こうして、苦労しながら一生懸命つとめること三十日、母鳥は疲れきって痩せたが、雛はしだいにふとってきた。親鳥は繰り返し繰り返し言葉を教え、一枚一枚丁寧に毛並みをそろえてやる。
ある日、翼が生え揃って飛べるようになると、飛び方を教えるために、引っぱって庭の木の枝に登らせた。すると雛たちは翼を広げ飛びたち、親のほうに振り向きもせず、風のまにまに四方に飛び去ってしまった。
雄雌一つがいの親燕は空中に鳴きながら、声がかれるほど呼んだが子燕は帰ってこない。 仕方なく、空っぽの巣に入って、一晩中なき悲しんだ。
燕よ。燕よ。お前たちは悲しんではいけない。お前達のことを反省すべきなのだ。
お前達がまだ雛だった時、やはり高く飛び去ってしまい、母親に背いてしまったことを。
あのときの父母の気持ちを、今になってお前達は思い知ったことだろう。
○劉叟==劉じいさん。
○梁上==柱の上にわたすはりのあたり。
○椽==垂木。 ○孜孜==たえず鳴く。
○須臾==わずかな時間。
○喃喃==親さえずって言葉を教えているさま。
○刷毛衣==雛の毛並みをそろえる。
○羽翼成==翼が生え揃って、飛べるようになる。
○却==もどる。 |
(解 説)
劉老人が子供に捨てられて悲しんでいる。その老人に自分自身の少年の時の反省をさせ、社会の一般的な風潮を燕を例にして、風刺した作品である。
一つがいの燕が、巣を作り、四羽の雛を生み、一か月間苦労を重ねて育てる。しかし、雛は成長すると巣を離れて、親燕を顧みない。おや燕は声がかれるまで叫び、夜も眠れない。そして最後の六句で、作者が、因果応報の世のならいを説いたもの。
(鑑 賞)
作者が長安に居た (807~811) 時の作。
内容はやさしく、難しい語句も使われておらず、いかなる人々にも理解し得る作品である。
また <孜孜> <喃喃> などの擬態語・擬声語をしきりに用いたり、<燕> <爾> <悲>
などの同じ文字を繰り返し用いている。これは、詩を身近に親しみ深いものにしてをり、白居易の詩の特徴となっている。 |