つばめりゅう そうしめ
白 居易
772 〜 646

梁上有雙燕

翩翩雄與雌

銜泥兩椽

一巣生四兒

四兒日夜長

索食聲孜孜

青蟲不易捕

黄口無飽期

觜爪雖欲敝

心力不知疲

須臾十來往

猶恐巣中飢

辛勤三十日

母痩雛漸肥

喃喃教言語
一一刷毛衣

一旦羽翼成

引上庭樹枝

擧翅不回顧

随風四散飛

雌雄空中鳴

聲盡呼不歸

郤入空巣裏

?啾終夜悲

燕燕爾勿悲

爾當返自思

思爾爲雛日

高飛背母時

當時父母念

今日爾應知
りょう じょう双燕そうえん
翩々へんぺん たりゆう
どろふくりょう てんかん
いつ そう
にち ちょう
しょくもと めてこえ たり
せい ちゅう とらやす からず
黄口こうこう とき
そう やぶ れんとほつ すといえど
しん りょく つか れを らず
しゅ にして たび来往らいおう
そう ちゅううえおそ
辛勤しんぎん さん じゅう にち
はは せてひな ようや
喃喃なんなん としてげん おし
一一いちいち もう
一旦いつたん よく れば
いててい じゅえだのぼ らしむ
はね げてかい せず
かぜしたが って さん して
ゆう くう ちゅう
こえ きるまで べどもかえ らず
かえ って空巣くうそううち
ちゅう しゅう としてしゅう かな しむ
つばめつばめ なんじ かな しむことなか
なんじ まさかえ ってみずかおも うべし
おもなんじひな りし
たか んでははそむ きしとき
とう ねん
今日こんにち なんじ まさ るべし

(通 釈)
橋のあたりに二羽のつばめが住んでいる。ひらりひらりと身軽に飛ぶ雄と雌が、せっせと泥をくわえて来て、二本の垂木の間に巣を作り、その巣に四羽の雛を産んだ。
その四羽の雛は日ごとに成長し、食べ物を欲しがって絶えずピーピーと鳴きたてる。
餌になる青虫は簡単に捕らえられないのに、雛たちは満ちたりる時がない。
親鳥の嘴や爪は傷つきそうだけれども、雛鳥の為に気力にあふれ疲れを覚えない。
わずかな間に十回も往復するのだが、それでも、まだ巣の雛たちが腹をすかしてはいないかと心配する。
こうして、苦労しながら一生懸命つとめること三十日、母鳥は疲れきって痩せたが、雛はしだいにふとってきた。親鳥は繰り返し繰り返し言葉を教え、一枚一枚丁寧に毛並みをそろえてやる。
ある日、翼が生え揃って飛べるようになると、飛び方を教えるために、引っぱって庭の木の枝に登らせた。すると雛たちは翼を広げ飛びたち、親のほうに振り向きもせず、風のまにまに四方に飛び去ってしまった。
雄雌一つがいの親燕は空中に鳴きながら、声がかれるほど呼んだが子燕は帰ってこない。 仕方なく、空っぽの巣に入って、一晩中なき悲しんだ。
燕よ。燕よ。お前たちは悲しんではいけない。お前達のことを反省すべきなのだ。
お前達がまだ雛だった時、やはり高く飛び去ってしまい、母親に背いてしまったことを。
あのときの父母の気持ちを、今になってお前達は思い知ったことだろう。
○劉叟==劉じいさん。
○梁上==柱の上にわたすはりのあたり。
○椽==垂木。 ○孜孜==たえず鳴く。
○須臾==わずかな時間。
○喃喃==親さえずって言葉を教えているさま。
○刷毛衣==雛の毛並みをそろえる。
○羽翼成==翼が生え揃って、飛べるようになる。
○却==もどる。


(解 説)
劉老人が子供に捨てられて悲しんでいる。その老人に自分自身の少年の時の反省をさせ、社会の一般的な風潮を燕を例にして、風刺した作品である。
一つがいの燕が、巣を作り、四羽の雛を生み、一か月間苦労を重ねて育てる。しかし、雛は成長すると巣を離れて、親燕を顧みない。おや燕は声がかれるまで叫び、夜も眠れない。そして最後の六句で、作者が、因果応報の世のならいを説いたもの。

(鑑 賞)
作者が長安に居た (807〜811) 時の作。
内容はやさしく、難しい語句も使われておらず、いかなる人々にも理解し得る作品である。
また <孜孜> <喃喃> などの擬態語・擬声語をしきりに用いたり、<燕> <爾> <悲> などの同じ文字を繰り返し用いている。これは、詩を身近に親しみ深いものにしてをり、白居易の詩の特徴となっている。