めい そう につ ぽん ごう
松口 月城
1888 〜 1981

美酒元來吾所好

斗杯傾盡人驚倒

酒は飲め飲め 飲むならば
    日の本一の この鎗を
呑み取るほどに 呑むならば
    これぞまことの 黒田武士

古謡一曲藝城中

呑取名鎗日本號
しゅ 元来がんらい このところ
はい かたむつく してひと きょう とう

  酒は飲め飲め 飲むならば
      日の本一の この鎗を
  呑み取るほどに 呑むならば
      これぞまことの 黒田武士


よう いつ きょく げい じょううち
めい そう につ ぽん ごう

(通 釈)
美酒はもともと自分の好むところである。
すすめられるままに、大杯になみなみと注いだ酒を呑み尽くすと、座に居る者どもは皆倒れんばかりに驚いた。
黒田節の歌われているこの城の陣屋で、見事斗杯を呑み尽くして約束の名鎗日本号をわが物にしてみせようぞ。

○斗杯==一斗も入る大杯。漢語でいう一斗は、日本の一升。
○人驚倒==大杯の酒を一気に飲み干した母里太平衛の見事な呑みっぷりに一座の者が驚いた。
○古謡==筑前今様。民謡 「黒田節」 のもとになった古謡。
○芸城==芸洲 (安芸。現在の広島県) 候の陣屋。母里太平衛が主命を帯びて、福島正則の陣屋に使いして酒を強いられ、賞として名鎗日本号をもらい受けた。関ヶ原合戦後の伏見城中のことであったという。
○呑取==大杯を呑み尽くして名鎗日本号を自分のものとする。


(解 説)
民謡 「黒田節」 に材を採ったもの。黒田藩 (現在の福島県) の母里太平衛が福島正則所有の名鎗日本号を賭けて大杯を飲み干した故事と、当時の武士の心情を詠ったもの。

(鑑 賞)
母里太平衛の意気揚々とした様を巧みに詠んだ作者自信の作であろう。
起句に 「美酒元来吾が好む所」 と母里太平衛の豪傑ぶりを説き起こし、承句で、なみなみと注いだ大杯を、見ている者がまさかと思う中を、一気に飲み干す太平衛の心意気を承け、一転転句に至って古謡 「黒田節」 をもち出して、日本号のやりとりの故事で結んでいる。
用いる語に、若干の疑問はあるものの、起承転結の妙ある作といえよう。民謡に材料を採った新しい詩である。