(通 釈) 美酒はもともと自分の好むところである。 すすめられるままに、大杯になみなみと注いだ酒を呑み尽くすと、座に居る者どもは皆倒れんばかりに驚いた。 黒田節の歌われているこの城の陣屋で、見事斗杯を呑み尽くして約束の名鎗日本号をわが物にしてみせようぞ。
○斗杯==一斗も入る大杯。漢語でいう一斗は、日本の一升。 ○人驚倒==大杯の酒を一気に飲み干した母里太平衛の見事な呑みっぷりに一座の者が驚いた。 ○古謡==筑前今様。民謡 「黒田節」 のもとになった古謡。 ○芸城==芸洲 (安芸。現在の広島県) 候の陣屋。母里太平衛が主命を帯びて、福島正則の陣屋に使いして酒を強いられ、賞として名鎗日本号をもらい受けた。関ヶ原合戦後の伏見城中のことであったという。 ○呑取==大杯を呑み尽くして名鎗日本号を自分のものとする。