烏(う) 夜(や) 啼(てい)
李 白
盛唐 (701 〜 762)


黄雲(こううん) 城(じょう) 辺(へん) 烏(からす) 棲(す) まんと欲(ほつ) す
帰(かえ) り飛(と) んで唖(あ) 唖(あ) として枝(し) 上(じょう) に啼(な) く
機(き) 中(ちゅう) 錦(にしき) を織(お) る秦川(しんせん) の女(じょ)
碧(へき) 紗(さ) 煙(けむり) の如(ごと) く?(まど) を隔(へだ) てて語(かた) る
梭(おさ) を停(とど) めて悵(ちょう) 然(ぜん) として遠人(えんじん) を憶(おも) う
独(ひと) り空房(くうぼう) に宿(しゅく) して涙(なみだ) 雨(あめ) の如(ごと) し
黄雲城邊烏欲棲

歸飛唖唖枝上啼

機中織錦秦川女

碧紗如煙隔?語

停梭悵然憶遠人

獨宿空房涙如雨

黄色い雲がたなびく夕暮れの城辺のねぐらに、烏が帰って来て鳴いている。樹上で物寂しく鳴く声は、雌雄離れて悲しんでいるのであろうか。
機にかけて錦を織っているのは、夫に 「廻文錦字詩」 を織って送った秦川の女のように、遠く離れている夫を思う女であろう。
碧色の薄物の窓掛けは、夕方の烟のように見えるが、その窓越しに話す声が聞こえている。そして時折梭の手を止めて、嘆かわしげに、遠征中の夫の姿を思い浮かべて考え込んでいる様子である。
やがて夜になって、ただ一人で、夫の居ない部屋に寝るとき、寂しさ悲しさに、涙は雨の如く流れることであろう。