九月九日重陽の節句。慣わしに従って小高い丘に登って見れば、風は激しく吹き、空は高く澄んで、サルの鳴き声が悲しげに聞こえてくる。
長江 (揚子江) の水際は清く、砂は白く、その上を鳥が輪をかいて飛んでいる。果てしなく広がる落葉樹は、寂しげな音を立てて葉を散らせ、尽きることのない長江の流れは、あとからあとから流れてくる。
故郷を遠く離れた他郷の地で、もの悲しい秋に出会い、あいも変わらず旅人の身だ。しかも生涯病気がちの身で、今日の節句を迎え、ただ一人この高台に登った。思えば、苦労を重ねた為に、すっかり白くなってしまった鬢の毛が、とても恨めしい。
今日は、家族と共に菊酒を飲んで災いを払う日であるし、また濁り酒を飲むことを、せめてもの慰めとしていた自分であるが、老いさらばえた今の身、これからは、止めねばならなくなった。その必要もなくなったのだ。
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