とう こう
杜 甫
盛唐 (712 〜 770)


かぜ きゅうてん たこ うしてえん しょう かな
なぎさ きよすな しろ うしてとり めぐ
へん落木らくぼく しょう しょう としてくだ
じんちょう こう 滾滾こんこん としてきた
ばん しゅう つねかく
ひゃく ねん びょう ひとだいのぼ
艱難かんなん はなはうら繁霜はんそうびん
潦倒ろうとう あらたとど濁酒だくしゅはい
風急天高猿嘯哀

渚清沙白鳥飛廻

無邊落木蕭蕭下

不盡長江滾滾來

萬里悲秋常作客

百年多病獨登臺

艱難苦恨繁霜鬢

潦倒新停濁酒杯

九月九日重陽の節句。慣わしに従って小高い丘に登って見れば、風は激しく吹き、空は高く澄んで、サルの鳴き声が悲しげに聞こえてくる。
長江 (揚子江) の水際は清く、砂は白く、その上を鳥が輪をかいて飛んでいる。果てしなく広がる落葉樹は、寂しげな音を立てて葉を散らせ、尽きることのない長江の流れは、あとからあとから流れてくる。
故郷を遠く離れた他郷の地で、もの悲しい秋に出会い、あいも変わらず旅人の身だ。しかも生涯病気がちの身で、今日の節句を迎え、ただ一人この高台に登った。思えば、苦労を重ねた為に、すっかり白くなってしまった鬢の毛が、とても恨めしい。
今日は、家族と共に菊酒を飲んで災いを払う日であるし、また濁り酒を飲むことを、せめてもの慰めとしていた自分であるが、老いさらばえた今の身、これからは、止めねばならなくなった。その必要もなくなったのだ。