じん そう
曾 鞏
北宋 (1019 〜 1083)

鴻門玉斗粉如雪

十萬降兵夜流血

咸陽宮殿三月紅

覇業已随煙燼滅

剛強必死仁義王

陰陵失道非天亡

英雄本學萬人敵

何用屑屑悲紅粧

三軍散盡旌旗倒

玉帳佳人座中老

香魂夜逐劍光飛

青血化爲原上草

芳心寂莫寄寒枝

舊曲聞來似斂眉

哀怨徘徊愁不語

恰如初聽楚歌時

滔滔逝水流今古

漢楚興亡兩丘土

當年遺事久成空

慷慨樽前爲誰舞

鴻門こうもんぎょく ふん としてゆきごと
じゅう まん降兵こうへい よる なが
かん ようきゅう 殿でん 三月さんげつ くれない なり
ぎょう すで煙燼えんじんしたが ってめつ
ごう きょう なるはかならじん なるはおう たり
いん りょうみちうしな いしはてんほろ ぼすにあら
英雄えいゆう もと まな万人ばんにんてき
なんもち いんせつ せつ としてこう しょうかな しむを
三軍さんぐん さん きてせい たお
ぎょく ちょう じん ちゅう
香魂こうこん よる 剣光けんこう うて
青血せいけつ してげん じょうくさ
芳心ほうしん 寂莫せきばく かん
きゅう きょく たってまゆおさ むるに たり
哀怨あいえん 徘徊はいかい うれ えてかた らず
あた かもはじ めて きしときごと
とう とう たる逝水せいすい こん なが
かん 興亡こうぼう ふた つながらきゅう
当年とうねん ひさ しくくう
樽前そんぜん慷慨こうがい してため にか わん


項羽の参謀范増は、鴻門の会で沛公から贈られた玉斗を雪のようにこなごなに砕いてしまい、また項羽は、秦の降伏兵十万人を夜襲して皆殺しにし、更に、秦の都咸陽の宮殿は、項羽によって火を放たれ、三ヶ月間も真っ赤に燃え続けた。秦の始皇帝の覇業は阿房宮の煙と共に滅びてしまった。
ただ強いだけの者は滅び、仁義にあつい者は慕われて王者となる。
項羽が陰陵で道に迷い、農夫に騙され、結局身を亡ぼすに至ったのは、決して天が亡ぼそうとしたのではない、自ら招いたことなのだ。
項羽が、もともと万人を敵とする兵法を学んだのであれば、虞美人との別れを、くよくよと悲しむこともないだろう。項羽の軍は、すでに散りじりとなり、軍旗も地に倒れてしまい、玉帳の中の美人も、見る見るうちに老けてしまった。
自刃した虞妃の魂は、夜剣光を追うように飛び去り、碧血は化して野原の草となった。
その魂は寂しげに寒々しい枝に寄り付き、垓下で項羽に和して歌った別離の曲が聞こえてくると、さながら眉をひそめて人が悲しむかのようである。
悲しみ憂えるように風に揺れそよぐのみで音も立てない様子は、虞妃が垓下で始めて誌面に楚歌を聞いた時のようである。
滔滔と流れる川の水は、今も昔に変わりはないが、興った漢も、滅びた楚も両方とも、今は丘の土と化してしまった。当時の事件は、遠い昔の事となってしまった。
今、酒宴の席の前で、虞美人草が昔のことをいたみ嘆くかのように風にそよいでいるが、一体、誰の為に舞っているのであろうか。