朝(あした) に恩遇(おんぐう) を蒙(こうむ) りて夕(ゆうべ) に焚坑(ふんこう) せらる 人生(じんせい) の浮(ふ) 沈(ちん) 晦明(かいめい) に似(に) たり 縦(たとえ) 光(ひかり) を回(めぐ) らさざるも葵(あおい) は日(ひ) に向(むこ) う 若(も) し運(うん) 開(ひら) く無(な) きも意(い) は誠(まこと) を推(お) さん 洛(らく) 陽(よう) の知(ち) 己(き) 皆(みな) 鬼(き) と為(な) り 南(なん) 嶼(しょ) の俘(ふ) 囚(しゅう) 独(ひと) り生(せい) を竊(ぬす) む 生(せい) 死(し) 何(なん) ぞ疑(うたが) わん天(てん) の附(ふ) 与(よ) なるを 願(ねが) わくば魂魄(こんぱく) を留(とど) めて皇(こう) 城(じょう) を護(まも) らん
朝蒙恩遇夕焚坑 人生浮沈似晦明 縦不囘光葵向日 若無開運意推誠 洛陽知己皆爲鬼 南嶼俘囚獨竊生 生死何疑天附與 願留魂魄護皇城
朝には君の恩遇を頂いていたのだが、夕べには焚書坑儒の如き災厄に陥ることになった。 人の世の運命の浮き沈みを考えると、丁度夜と昼とが代わる代わるに来るようなものである。 葵の花はたとい太陽がその方に光を回らさなくても、いつも変わりなく太陽のほうに向かっているように、自分は事破れて配流の身となり、新しい運命を開くことが出来ないとしても、心は常に忠誠を貫いていきたい。 思い回らせば都にあって共に事を謀った友人達は皆鬼籍に入り、自分一人は南海の小島に捕らわれの身となって、どうやら命だけは保っている。しかし生死は天の与えるものであることに疑いはない。生きるにしても、死ぬるにしても、魂魄はこの世に留まって、いつまでも皇城をお護りしたいものだ。