ごく ちゅう かん
西郷 南洲
文政十 (1827) 〜 明治十 (1877)


あした恩遇おんぐうこうむ りてゆうべ焚坑ふんこう せらる
人生じんせい ちん 晦明かいめい たり
たとえ ひかりめぐ らさざるもあおいむこ
うん ひら きもまこと さん
らく よう みな
なん しょ しゅう ひとせいぬす
せい なんうたが わんてん なるを
ねが わくば魂魄こんぱくとど めてこう じょうまも らん

朝蒙恩遇夕焚坑

人生浮沈似晦明

縦不囘光葵向日

若無開運意推誠

洛陽知己皆爲鬼

南嶼俘囚獨竊生

生死何疑天附與

願留魂魄護皇城


朝には君の恩遇を頂いていたのだが、夕べには焚書坑儒の如き災厄に陥ることになった。
人の世の運命の浮き沈みを考えると、丁度夜と昼とが代わる代わるに来るようなものである。
葵の花はたとい太陽がその方に光を回らさなくても、いつも変わりなく太陽のほうに向かっているように、自分は事破れて配流の身となり、新しい運命を開くことが出来ないとしても、心は常に忠誠を貫いていきたい。
思い回らせば都にあって共に事を謀った友人達は皆鬼籍に入り、自分一人は南海の小島に捕らわれの身となって、どうやら命だけは保っている。しかし生死は天の与えるものであることに疑いはない。生きるにしても、死ぬるにしても、魂魄はこの世に留まって、いつまでも皇城をお護りしたいものだ。