すい えん おこ
頼 山陽
安永九 (1780) 〜 天保三 (1831)


けむり いまうかば ばず天皇てんのう うれ いたもう
けむり すでおこ天皇てんのう よろこ びたもう
漏屋ろうおく へい せき ましむ
ちち まず しき
はつ しゅう ひゃく まんけむり
皇統こうとうむらがよう してとこし えにてんせつ
煙未浮  天皇愁

煙已起  天皇喜

漏屋敝衣富赤子

子富父貧無此理

八州縷縷百萬煙

簇擁皇統長接天

仁徳天皇は、人民の様子を見るために高殿に上られた際、民家の水煙がたえだえなのをご覧になって、大いに愁いたまい、三年間の課役を免ぜられた。
三年後、水煙が盛んに立ちのぼるのをご覧になられて、天皇は大いに喜ばせたもうて 「朕富めり」 と語られた。
皇后が、「宮殿の屋根は雨漏りがし、陛下の御衣は敗れているのに富めるといわれますか」 と問われると、
「天祖は、人民のために君主をお立てになられた。君主のために人民があるのではない。君主は自ら倹約して人民を養わねばならない。人民が富めば君主が富んだことになる」 と仰せられた。
こうして後は、五穀豊穣、人民は富み、日本国中大いに水煙の上がるようになったが、これも、こうした洪大な御心を歴代の天皇が受け継がれ、国民もまたこの皇室を中心として敬慕しているからである。この世の存続するかぎりいよいよ栄えて行くことであろう。