かん よう じょう とうろう
許 渾
晩唐 (832の進士)

ひと たびこう じょうのぼ ればばん うりょ
けん よう りゅう てい しゅう たり
溪雲けいうん はじ めておこ って かくしず
さん きた らんとほつ してかぜ ろう
とりりょく くだ秦苑しんえんゆうべ
せみ黄葉こうようかん きゅうあき
行人こうじん なか当年とうねんこと
こく 東来とうらい すい なが
一上高城萬里愁

蒹葭楊柳似汀洲

溪雲初起日没閣

山雨欲來風滿樓

鳥下緑蕪秦苑夕

蝉鳴黄葉漢宮秋

行人莫問當年事

故國東來渭水流

古都咸陽の城楼に登って見れば、一望万里の景は、すべて愁いに満ちている。
また、萩や葦がのび、楊柳が生い茂ったさまは水際に似て、昔の栄華のあとはどこにもない。
谷間から雲が湧き上がったかと思うと、日はもう城楼の陰に沈んで行く。遠くの山あいから雨が降り来るのか、風がここにも吹き寄せて来た。
かっての秦の宮廷の庭園に日は暮れて、鳥が荒れた草地に舞い下り、昔漢宮のあった辺りでは蝉が黄ばんだ木の葉の中で鳴いて秋が近づいて来ている。
旅人よ、あの華やかだった秦朝・漢朝の頃のことなど、もう聞いて下さるな。この咸陽はもう廃墟と化してしまって、昔と変わらないものは、東へ向かって流れる渭水だけなのだから。