果てしない海はきわめることができない。どうしてその青海原の東など知り得よう、わかるはずもないのが、この世界の中でいったいどこが遠い国になるのか、あなたの国ほど遠いものはないと思う。万里もの道のりはまるで空を行くようなものであろう。
お国 (日本) に向かわれるには、ただひたすら日をながめ、お国への帰路の船はもっぱら風にまかせるほかあるまい。
海にいるというおおがめの体は黒々と天に映り、そこにすむ魚の眼は赤々と波に光る。
そしてあなたのお国は日の出ずる神木の外にあり、あなたはその孤島の中に住む。
もはや離れ離れになってしまうとあれば、場所は全く違うのだから、一体無事に便りが届くのだろうか、まことに心細いかぎりである。
(注) 秘書晁監は阿倍仲麻呂 (698〜770) 。
二十歳の時遣唐使に従って入唐、玄宗に仕え朝衡 (晁卿) と改名。在唐五十四年に及び、李白、王維らと交際があった。753年帰途についたが、船が安南に漂着したため長安に戻った。
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