小雨が降ってはいても、衣服を濡らすほどではない。山のあちらこちらにも、鶯が飛び交っている。 端を通り過ぎれば、まさにたけなわの春景色。桃の花が紅く咲き乱れ、川岸に立てば人家には白い板戸が美しい。 こちら側では居酒屋の旗が、われわれの気をさそっているかと思えば、むこうの船では、笛、つづみとともに、帰ってゆく客を送る様子である。 この今朝の優雅な楽しみが尽きないようにと願ったが、気がついてふり返ってみると、もう城門に夕日のさす暮れ方となっていた。